この記事は、病気やけがで傷病手当金を受給している従業員や、人事・総務担当者など、賞与(ボーナス)と傷病手当金の関係を知りたい方向けに書かれています。この記事では、傷病手当金の仕組みを簡潔に解説した上で、賞与への影響が法的にどう扱われるか、会社規定や就業規則でどのように定められるか、実務で問題になりやすいケースや確認すべきポイントを分かりやすく整理して説明します。
傷病手当金は賞与に影響するのか
原則として制度上は直接影響しない
健康保険の傷病手当金は、業務外の病気やけがで働けない期間に対して支給される公的給付であり、法的には賞与の支給そのものを差し替えたり減額するための給付ではありません。したがって、制度上は賞与の支給可否や金額を自動的に変える性質のものではないというのが原則の考え方です。
ただし会社の規定次第で変わる
一方で、賞与の支給基準や算定方法は会社の就業規則や賃金規程で定められることが多く、そこに「出勤率」「欠勤日数」「在籍要件」などの要件が記載されている場合は傷病手当金受給や休職中の欠勤が賞与額に影響することがあります。具体的には算定期間における欠勤日数が多いと標準的な平均賃金が下がったり、出勤率の下限を満たさないことで減額・不支給となる可能性があります。
傷病手当金の基本的な仕組み
業務外の病気やけがが対象
傷病手当金は健康保険から支給される給付であり、原則として業務外の病気やけがにより働けない場合が対象となります。業務上の災害である労災とは区別され、支給条件としては連続した3日間の待期期間の後、4日目以降の休業日が対象となることや、支給期間の上限(通算1年6か月など)が定められている点に注意が必要です。
給与の代わりに支給される制度
支給額は直近12か月の標準報酬月額の平均を基に1日あたりの標準報酬日額を算出し、その2/3相当が支給される仕組みになっています。したがって、給与が全額払われる場合や一部支給される場合などの状況により傷病手当金の受給額は変わり、また会社から給与が支払われている日には傷病手当金が調整されることがある点にも留意が必要です。
賞与の法的な位置づけ
必ず支給義務があるわけではない
賞与(ボーナス)は法律上必ず支給しなければならない賃金ではなく、原則として任意の支給であるとされています。つまり、就業規則や雇用契約、労使協定などで支給を取り決めていない限り、法的な支給義務は生じないことがあり、会社は業績や個別事情に応じて支給の有無や額を決める余地を持ちます。
会社の就業規則や慣行で決まる
多くの企業では賞与に関して就業規則や賃金規程で支給基準を定め、過去の慣行や労使協定が支給の実務を左右します。特に支給条件に「在籍要件」「出勤率」「評価期間内の勤怠」などが明記されている場合には、休職や傷病手当金受給中の従業員に対してどのように扱うかが規程によって明確になりますので、雇用契約や就業規則の条文確認が重要です。
傷病手当金と賞与は別制度
支給主体が異なる
傷病手当金は健康保険(公的保険)が支給主体であり、社会保険制度に基づく給付です。これに対して賞与は企業が自社の判断で支給する賃金にあたるため、支給主体や根拠が明確に異なります。支給主体の違いは手続きや支払基準、調整の仕方にも影響を与えます。
目的も異なる
傷病手当金は生活保障を目的とした医療関連の公的給付である一方、賞与は業績や個人の評価に応じた報奨・処遇改善の一形態であり、目的が根本的に違います。そのため、一方の給付を理由に他方が自動的に減額されるわけではなく、会社規程で明確に定められている場合に限り扱いが変わる点に注意が必要です。
| 項目 | 傷病手当金 | 賞与 |
|---|---|---|
| 支給主体 | 健康保険組合や協会けんぽ等 | 会社(事業主) |
| 目的 | 療養中の生活保障 | 業績や評価に基づく報酬 |
| 法的性格 | 公的給付 | 任意の賃金(規程で決定) |
賞与が減額されるケースとは
算定期間中の欠勤日数が影響する
賞与の算定期間(直近の何か月分の給与や評価期間など)に欠勤日数が多い場合、支給基準が「実働日数比例」や「出勤率」を前提にしていると賞与額が減ることがあります。特に無給の欠勤が多く、評価データや平均賃金の算出に欠勤が反映されると標準報酬の平均が下がり、結果的に賞与の算定ベースが低下するケースがあります。
出勤率要件がある場合
就業規則で賞与支給に「出勤率〇〇%以上で支給」といった要件がある場合、傷病手当金を受給している期間が無給扱いとなれば出勤率が低下し、要件未達で減額または不支給となる可能性があります。したがって出勤率の算定方法や有給扱いの可否、待期期間の取り扱いなどを規程でどう定義しているかが重要になります。
出勤率要件の考え方
就業規則的記載が重要
出勤率要件の扱いは就業規則や賃金規程の記載内容次第で変わるため、どの期間を分母にし、どの欠勤をどう扱うか(有給・無給・療養中の取り扱い等)を明確にしておくことが求められます。曖昧な記載は労使トラブルの原因となるため、事前に具体的な数値や計算方法を示すことが望ましいです。
合理性が求められる
出勤率要件や欠勤の扱いについては、過度に不利な取り扱いを行うと不当な差別や不合理な規程と判断されるリスクがあります。裁判例や労基署の考え方では、労働者にとって過度に不利益となる取り扱いは問題視されるため、会社は合理的な基準を設定し、説明義務を果たすことが重要です。
休職中の賞与支給の扱い
在籍要件の有無
休職中の賞与支給に関しては、在籍要件の有無が大きなポイントになります。多くの企業では「支給日に在籍していること」を支給条件にしており、休職中でも在籍扱いとなるかどうかが賞与を受け取れるかどうかに直結します。規程で在籍や休職の定義を確認することが必要です。
支給日在籍が条件になる場合
就業規則で「支給日に在籍していること」を明記している場合、休職期間中でも雇用関係が維持され在籍扱いであれば賞与支給対象となることがあります。逆に懲戒等で一時的に雇用が停止され在籍要件を満たさない場合は不支給となる可能性があり、具体的な運用ルールを事前に確認しておくことが重要です。
賞与計算における算定期間の影響
実働日数が基準になることが多い
賞与の算定においては、支給基準が「直近○か月の平均給与」「実働日数に応じた按分」などさまざまですが、実務では実働日数や出勤日数を基準に按分するケースが多く見られます。したがって、休職や欠勤が算定期間に含まれると算定値が変動するため、休業期間の取り扱いが重要です。
評価期間との関係
賞与に個人評価が反映される場合、評価期間と欠勤の関係が賞与額に影響を与えます。療養で業務評価ができない期間が長い場合、評価の対象外や調整が行われることがあり、評価方法や補填ルール(欠勤時の評価基準など)を明記しておくことが望まれます。
傷病手当金受給中でも賞与は出るのか
規定により支給される場合がある
就業規則や賃金規程で休職中の賞与支給について明確に「支給する」と規定している場合は、傷病手当金受給中であっても賞与が支払われることがあります。特に有給扱いや在籍扱いが維持されるケースでは、給与と同様に賞与も支給される取り扱いとなることがあるため、個別の規定を確認してください。
全額不支給となる場合もある
反対に就業規則で休職や無給欠勤期間を理由に賞与を不支給とする旨が明記されている場合や、出勤率要件を満たさない場合は全額不支給となることがあります。したがって、受給中の賞与の見込みを立てる際は会社の規定を確認し、人事担当者と早めに相談することが重要です。
よくある誤解
傷病手当金をもらうとボーナスは出ないという誤解
よくある誤解として「傷病手当金を受け取ると自動的にボーナスが出ない」というものがありますが、これは必ずしも正しくありません。実際には賞与の支給可否は会社規定や雇用契約で決まるため、傷病手当金の受給そのものが自動的に賞与の不支給を招くわけではありません。
法律で自動的に減るという思い込み
同様に「法律で賞与が自動的に減る」という誤解もありますが、法令上は賞与は企業の任意支給であり、傷病手当金は別の公的給付であるため、法的に直接連動するわけではありません。ただし実務上は算定基準や出勤率の要件を通じて間接的に影響が出ることはあり得ます。
トラブルになりやすい場面
減額理由の説明不足
賞与の減額や不支給が発生した際に、会社側が理由を十分に説明しない場合、従業員との間でトラブルになることが多いです。具体的な算定根拠や欠勤のカウント方法、在籍判定の基準などを文書で示し、説明責任を果たすことが重要です。
規程と実際の運用の不一致
就業規則に書かれていることと実際の運用が一致していない場合も紛争の種になります。例えば規程上は有給扱いとされているのに実務では無給として扱われているなどの不整合は、改善が求められる点です。運用を変える際は労使での合意や周知を行うべきです。
会社が注意すべきポイント
就業規則と賃金規程の整合性
会社は就業規則や賃金規程に賞与支給基準、休職中の扱い、出勤率の計算方法などを明確に記載し、実際の運用と整合性が取れているかを定期的に確認する責任があります。規程が曖昧な場合は労務トラブルの原因となるため、専門家の助言を得て明確化することが望まれます。
事前の丁寧な説明
休職や傷病手当金の受給者に対しては、賞与の取り扱いについて事前に丁寧に説明し、必要であれば書面で通知して合意形成を図ることが重要です。透明性のあるコミュニケーションは紛争予防につながり、従業員の不安を軽減します。
- 就業規則の該当条項を明示すること
- 欠勤や在籍のカウント方法を具体的に説明すること
- 評価や算定の例を示して透明性を確保すること
従業員が確認すべき事項
賞与の算定方法
従業員側はまず賞与の算定方法がどのように定められているかを確認する必要があります。具体的には平均賃金の算出期間、実働日数の取り扱い、個人評価の反映方法などを就業規則や賃金規程で確認し、不明点は人事担当者に相談することが重要です。
出勤率や在籍要件
出勤率の計算方法や在籍要件が賞与支給の要件になっている場合、どの欠勤が有給扱いなのか、傷病手当金受給中はどのようにカウントされるのかを確認してください。疑義がある場合は書面での確認を求めると後からの誤解を防げます。
賞与と社会保険料の関係
賞与にも保険料がかかる
賞与にも健康保険や厚生年金、雇用保険などの保険料がかかります。賞与支給時には賞与に対して所定の保険料率を乗じて保険料が徴収され、会社と従業員で負担を分担するため、賞与の手取りが支給額そのままになるわけではない点に注意が必要です。
傷病手当金には保険料はかからない
一方で傷病手当金自体には社会保険料(健康保険料や厚生年金保険料等)は課されないのが一般的です。これは傷病手当金が非課税の給付ではなく保険給付の一種であり、標準報酬の計算や税務上の扱いと異なる点があるため、賞与と傷病手当金は課税・保険料負担の観点でも別扱いになります。
| 項目 | 賞与 | 傷病手当金 |
|---|---|---|
| 社会保険料 | 徴収あり(健康保険・厚生年金等) | 原則徴収なし |
| 課税 | 所得税の対象 | 所得税の取り扱いが異なる場合あり(給与とは別扱い) |
まとめ|賞与への影響は会社規定で決まる
傷病手当金と賞与は別問題
傷病手当金は健康保険からの公的給付であり、賞与は会社が支給する賃金という点で制度的に別物です。したがって傷病手当金の受給が直ちに賞与を否定するわけではなく、影響の有無や程度は就業規則や賃金規程によって決まります。
就業規則の確認が重要
結論として、従業員・会社ともにまずは就業規則・賃金規程の該当条項を確認し、不明な点は人事や社会保険労務士に相談することをおすすめします。事前の明確な規定と丁寧な説明があれば、賞与を巡るトラブルを未然に防ぐことができます。
- 就業規則の該当条項を確認すること
- 欠勤や在籍の取り扱いを明確にすること
- 不明点は人事や専門家に相談すること
この記事を書いた人
- 社会保険労務士・採用定着士
- 岩本 浩一(いわもと こういち)
社会保険労務士法人あいパートナーズ 代表社員
採用と定着に特化した人事労務のスペシャリスト。愛媛県社会保険労務士会所属(登録番号:3806011)。愛媛県松山市を拠点に、地元企業のみならず全国の企業の組織成長を支援している。「人手不足を解消し、持続可能な組織をつくる」ことをミッションに掲げ、理論と現場のリアリティを融合させたコンサルティングを展開。
特に「企業型確定拠出年金(企業型DC)」を活用した退職金制度の構築に定評がある。従業員の将来設計を支える福利厚生の整備と、経営側のコスト効率化を両立させる専門的なスキームにより、採用力の強化と離職率の低下を同時に実現。数多くの中小企業における組織課題を解決へ導いてきた。
地域経済への貢献にも注力しており、地元メディア『愛媛経済レポート』にて採用定着をテーマとした連載を長期にわたり担当。また、AI技術を活用した情報発信のパイオニアとしても活動しており、YouTubeチャンネル『あいパートナーズ AI労働解説』やPodcast『博識な猫タマとクロの資料解説』を通じて、労働法や人事トレンドの最新情報を、経営者や人事担当者に向けて分かりやすく解説している。
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