労災手続きは何から始める?会社と従業員が取るべき実務対応とは

この記事は、労働災害(労災)が発生した際に「何から手続きを始めればよいのか」「会社と従業員はどのような対応を取るべきか」と悩む方に向けて書かれています。
労災手続きの流れや必要書類、会社・従業員それぞれの実務対応、注意点まで、初めてでも分かりやすく解説します。
労災申請の基本から実際の現場対応まで、安心して進めるためのポイントを網羅しています。

Table of Contents

労災手続きの基本的な流れ

労災手続きは、事故発生から治療、申請、給付まで一連の流れがあります。
まず、労働者が会社に事故を報告し、必要に応じて医療機関で治療を受けます。
その後、会社と連携して労災申請書類を準備し、労働基準監督署(労基署)へ提出します。
労基署による審査を経て、認定されれば労災保険から給付が支給されます。
この流れを正しく理解し、迅速に対応することが重要です:

  • 事故発生・会社への報告
  • 医療機関での治療
  • 申請書類の準備・提出
  • 労基署の審査
  • 給付の支給

事故発生から治療開始までの初動対応が重要

労災事故が発生した場合、まず最優先すべきは負傷者の救護と迅速な治療です。
初動対応が遅れると、症状が悪化したり、後の労災認定に影響することもあります。
事故発生直後は、現場の安全確保とともに、速やかに医療機関へ搬送し、必要な応急処置を行いましょう。
また、事故の状況を正確に記録し、関係者への連絡も忘れずに行うことが大切です:

  • 負傷者の救護・応急処置
  • 医療機関への搬送
  • 事故状況の記録

労働者・会社・医療機関が連携して進める仕組み

労災手続きは、労働者・会社・医療機関の三者が連携して進める必要があります。
労働者は事故の報告や必要書類の提出、会社は申請書類の作成や証明、医療機関は診断書の発行や治療内容の記載など、それぞれの役割があります。
スムーズな手続きのためには、情報共有と協力体制が不可欠です。
特に、申請書類の記載内容に不備があると、審査が遅れる原因となるため注意しましょう:

役割主な対応内容
労働者事故報告・書類提出
会社申請書作成・証明
医療機関診断書発行・治療

労働基準監督署への申請が必要になるケースも多い

労災事故が発生した場合、一定の条件下では労働基準監督署への申請が必要となります。
特に、休業が4日以上に及ぶ場合や、後遺障害・死亡事故などは必ず申請が求められます。
申請には、会社が作成した申請書や医師の診断書などが必要です。
また、労災指定医療機関で治療を受けた場合は、病院での手続きも発生します。
申請のタイミングや必要書類を事前に確認しておくことが、スムーズな給付につながります:

  • 休業4日以上の労災
  • 後遺障害・死亡事故
  • 指定医療機関での治療

事故発生時の会社の初動対応

事故が発生した際、会社は迅速かつ適切な初動対応を取ることが求められます。
まずは負傷者の救護と医療機関への搬送を最優先し、その後、事故状況の確認や記録、目撃者からのヒアリングを行います。
また、再発防止のための現場対策も重要です。
これらの対応が不十分だと、労災認定や今後の安全管理に悪影響を及ぼす可能性があるため、マニュアル化や教育の徹底が必要です:

負傷者の救護と医療機関への搬送

事故発生時、会社が最初に行うべきは負傷者の救護と速やかな医療機関への搬送です。
応急処置を施し、必要に応じて救急車を手配します。
この初動対応が遅れると、従業員の健康被害が拡大するだけでなく、後の労災認定や会社の責任問題にも発展しかねません。
また、搬送先が労災指定医療機関かどうかも確認し、可能であれば指定医療機関を選ぶことで、従業員の自己負担を防ぐことができます:

  • 応急処置の実施
  • 救急車やタクシーでの搬送
  • 労災指定医療機関の確認

事故状況の確認・記録・目撃者のヒアリング

負傷者の救護が完了したら、事故現場の状況を正確に確認し、写真やメモで記録を残します。
また、目撃者がいる場合は、当時の状況をヒアリングし、証言を記録しておくことが重要です。
これらの記録は、後の労災申請や労基署の調査時に重要な証拠となります。
事故の再発防止や会社のリスク管理の観点からも、詳細な記録を残すことが求められます:

  • 現場写真の撮影
  • 事故発生時刻・場所の記録
  • 目撃者の証言記録

再発防止のための現場対策を実施

事故発生後は、同様の事故が再び起こらないよう、現場の安全対策を速やかに実施することが会社の責任です。
危険箇所の改善や作業手順の見直し、安全教育の徹底など、再発防止策を講じましょう。
また、事故原因の分析結果や対策内容は、社内で共有し、全従業員の安全意識向上につなげることが大切です。
これにより、労災リスクの低減と職場環境の改善が期待できます:

  • 危険箇所の改善
  • 作業手順の見直し
  • 安全教育の実施

労災申請に必要な書類

労災申請を行う際には、いくつかの書類が必要となります。
主なものは、事故の種類に応じた申請書(様式5号・16号)、医師の診断書、賃金台帳や出勤簿などです。
これらの書類は、労基署の審査や給付の支給に不可欠なため、不備や記載漏れがないよう注意しましょう。
また、状況によっては追加資料の提出を求められることもありますので、事前に必要書類を確認しておくことが重要です:

書類名用途
様式5号業務災害の申請
様式16号通勤災害の申請
診断書(様式6号)医師による診断内容の証明
賃金台帳・出勤簿休業補償等の算定

様式5号(業務災害)・様式16号(通勤災害)の申請書

労災申請の際には、事故の種類に応じて「様式5号(業務災害)」または「様式16号(通勤災害)」の申請書を使用します。
これらの申請書には、事故の発生状況や負傷内容、会社の証明欄などを正確に記載する必要があります。
記載内容に不備があると、労基署での審査が遅れる原因となるため、会社と労働者が協力して丁寧に作成しましょう:

  • 業務災害:様式5号
  • 通勤災害:様式16号
  • 会社の証明欄の記入が必要

医師の診断書(労災様式第6号)

労災申請には、医師が作成する診断書(労災様式第6号)が必要です。
この診断書には、負傷や疾病の内容、治療期間、労務不能期間などが記載されます。
診断書は、労基署が労災認定を行う際の重要な判断材料となるため、必ず医療機関で発行してもらいましょう。
また、診断書の内容に疑問がある場合は、医師に確認することも大切です:

  • 負傷・疾病の内容
  • 治療期間
  • 労務不能期間

賃金台帳や出勤簿など必要な場合もある

休業補償給付などを申請する場合、賃金台帳や出勤簿などの書類が必要となることがあります。
これらは、給付基礎日額の算定や、実際の出勤状況を証明するために用いられます。
会社は、これらの書類を適切に保管し、必要に応じて速やかに提出できる体制を整えておくことが重要です。
また、書類の不備や紛失がないよう、日頃から管理を徹底しましょう:

  • 賃金台帳
  • 出勤簿
  • その他必要に応じた資料

医療機関での手続き

労災事故で治療を受ける場合、医療機関での手続きも重要です。
労災指定医療機関であれば、窓口での自己負担なく治療を受けることができます。
一方、指定外の医療機関で治療した場合は、後日労災保険に請求する必要があります。
いずれの場合も、必要書類を医療機関に提出し、労災扱いでの治療を受けることが大切です:

労災指定医療機関は窓口負担なしで治療可能

労災指定医療機関で治療を受ける場合、労災申請書類(様式5号や16号など)を提出すれば、窓口での治療費の自己負担はありません。
医療機関が直接、労災保険に請求する仕組みとなっているため、従業員は安心して治療に専念できます。
ただし、申請書類の提出が遅れると一時的に自己負担が発生する場合もあるため、早めの手続きが重要です。
会社は、従業員がスムーズに指定医療機関を利用できるよう、リストの整備や案内を徹底しましょう:

  • 窓口負担なしで治療可能
  • 申請書類の提出が必要
  • 会社による案内が重要

指定外の場合は後日請求が必要

労災指定医療機関以外で治療を受けた場合、いったん治療費を自己負担し、後日、労災保険に請求する必要があります。
この場合、領収書や診療明細書を必ず保管し、必要書類とともに労基署へ提出します。
手続きが煩雑になるため、できるだけ指定医療機関を利用することが望ましいですが、やむを得ない場合は会社がサポートしましょう。
また、請求には一定の期間制限があるため、早めの対応が求められます:

  • 自己負担後に請求
  • 領収書・明細書の保管
  • 会社のサポートが必要

必要書類を医療機関に提出して労災扱いにする

労災で治療を受ける際は、必ず必要書類(様式5号・16号など)を医療機関に提出し、労災扱いでの治療を依頼しましょう。
書類が未提出の場合、通常の健康保険扱いとなり、自己負担が発生することがあります。
また、医療機関によっては、労災申請の手続きに不慣れな場合もあるため、会社が従業員をサポートし、必要な情報を提供することが大切です。
書類の控えを必ず保管し、後日のトラブル防止にも備えましょう:

  • 必要書類の提出
  • 労災扱いの依頼
  • 書類控えの保管

労基署への提出と審査

労災申請書類が揃ったら、会社が中心となって労働基準監督署(労基署)へ提出します。
労基署では、事故の状況や業務・通勤との因果関係、書類の内容などを審査し、労災認定の可否を判断します。
審査には一定の期間がかかるため、書類の不備や追加資料の要請がないよう、事前にしっかりと準備しましょう。
認定後は、労災保険から各種給付が支給されます:

  • 会社が書類を提出
  • 労基署による審査
  • 認定後に給付支給

会社が申請書を作成し労基署へ提出する

労災申請の実務は、会社が中心となって進めます。
労働者からの報告や医師の診断書をもとに、必要な申請書類を作成し、労基署へ提出します。
提出時には、書類の控えを必ず保管し、万が一のトラブルや追加資料の要請に備えましょう。
また、提出後も労基署からの問い合わせや調査に迅速に対応することが求められます:

  • 会社が申請書を作成
  • 労基署へ提出
  • 控えの保管

労基署が業務・通勤との因果関係を審査する

労基署は、提出された書類や事故状況、目撃者の証言などをもとに、事故が業務または通勤に起因するかどうかを厳格に審査します。
因果関係が認められれば労災認定となり、給付が支給されますが、不明確な場合は追加資料の提出や関係者への聴取が行われることもあります。
会社と労働者は、調査に協力し、必要な情報を速やかに提供しましょう:

  • 業務・通勤との因果関係の審査
  • 追加資料の要請もあり
  • 調査への協力が必要

認定後、労災保険から給付が支給される

労基署による審査の結果、労災と認定されると、労災保険から各種給付が支給されます。
給付の種類や金額は、事故の内容や休業期間、障害の有無などによって異なります。
給付金は、原則として労働者本人の口座に振り込まれます。
認定までの期間はケースによって異なりますが、書類の不備がなければスムーズに進むことが多いです:

  • 労災認定後に給付支給
  • 給付内容は状況により異なる
  • 本人の口座に振込

支給される主な労災給付

労災保険からは、事故や傷病の内容に応じてさまざまな給付が支給されます。
主なものは、療養補償給付(治療費)、休業補償給付(休業中の生活保障)、障害補償給付、遺族補償給付などです。
それぞれの給付には支給要件や申請方法があるため、内容をよく確認し、必要な手続きを行いましょう:

給付の種類内容
療養補償給付治療費の全額支給
休業補償給付給付基礎日額の60%+特別支給金20%
障害補償給付障害の程度に応じた一時金・年金
遺族補償給付遺族への年金・一時金

療養補償給付(治療費)

療養補償給付は、労災事故や通勤災害によって負傷・疾病を負った場合に、治療費が全額支給される制度です。
労災指定医療機関であれば、窓口での自己負担はありません。
指定外の医療機関で治療した場合も、後日請求すれば全額が労災保険から支給されます。
治療が長期にわたる場合でも、必要な医療費は継続して補償されるため、安心して治療に専念できます:

  • 治療費は全額補償
  • 指定医療機関なら窓口負担なし
  • 指定外の場合は後日請求

休業補償給付(給付基礎日額の60%+特別支給金20%)

労災事故による療養のために仕事を休まざるを得ない場合、休業補償給付が支給されます。
支給額は、給付基礎日額の60%に加え、特別支給金として20%が上乗せされます。
これにより、休業中の生活を一定程度保障することができます。
ただし、休業4日目以降からの支給となるため、初日から3日目までは会社が休業補償を行う必要があります:

  • 給付基礎日額の60%+特別支給金20%
  • 休業4日目以降から支給
  • 初日~3日は会社が補償

障害補償・遺族補償など状況に応じた手当

労災事故によって後遺障害が残った場合は、障害等級に応じて障害補償給付(一時金または年金)が支給されます。
また、万が一死亡事故となった場合は、遺族に対して遺族補償給付(年金または一時金)が支給されます。
これらの給付は、被災者や遺族の生活を支える重要な制度です。
申請には追加書類や審査が必要となるため、会社と遺族が連携して手続きを進めることが大切です:

  • 障害補償給付(一時金・年金)
  • 遺族補償給付(年金・一時金)
  • 状況に応じた手当が支給

会社が注意すべきポイント

労災手続きにおいて、会社が注意すべきポイントはいくつかあります。
事故対応の遅れや不適切な対応は、労災認定に悪影響を及ぼすだけでなく、従業員との信頼関係や会社の社会的信用にも関わります。
また、従業員に自己負担を強制することは法律違反となるため、絶対に避けましょう。
記録の保管や報告体制の整備も、トラブル防止や再発防止の観点から非常に重要です:

  • 事故対応の迅速化
  • 従業員への自己負担強制の禁止
  • 記録・報告体制の整備

事故対応の遅れは労災認定に影響する可能性がある

事故発生時の初動対応が遅れると、労災認定が難しくなったり、給付が遅れる原因となります。
また、事故の状況が不明確になり、会社の責任が問われるリスクも高まります。
従業員の安全と権利を守るためにも、迅速かつ適切な対応を徹底しましょう。
社内マニュアルの整備や定期的な訓練も有効です:

  • 初動対応の徹底
  • 事故状況の迅速な記録
  • 社内教育・訓練の実施

従業員に自己負担を強制してはいけない

労災事故による治療費や休業補償などは、原則として労災保険から支給されます。
会社が従業員に自己負担を強制することは、労働基準法違反となり、行政指導や罰則の対象となる場合があります。
従業員が安心して働ける環境を整えるためにも、法令遵守を徹底しましょう。
疑問点がある場合は、労基署や専門家に相談することも大切です:

  • 自己負担の強制は禁止
  • 法令遵守の徹底
  • 疑問点は専門家に相談

記録の保管・報告体制を整えておくことが重要

労災手続きに関する書類や事故記録は、一定期間保管する義務があります。
また、事故発生時には速やかに関係部署や労基署へ報告できる体制を整えておくことが重要です。
記録の紛失や報告漏れは、後のトラブルや労災認定の遅れにつながるため、日頃から管理体制を見直しましょう。
デジタル化やクラウド管理の導入も有効です:

  • 書類・記録の適切な保管
  • 報告体制の整備
  • 管理体制の見直し

動画で解説

この記事を書いた人

岩本浩一社会保険労務士・採用定着士
岩本 浩一(いわもと こういち)
社会保険労務士法人あいパートナーズ 代表社員

採用と定着に特化した人事労務のスペシャリスト。愛媛県社会保険労務士会所属(登録番号:3806011)。愛媛県松山市を拠点に、地元企業のみならず全国の企業の組織成長を支援している。「人手不足を解消し、持続可能な組織をつくる」ことをミッションに掲げ、理論と現場のリアリティを融合させたコンサルティングを展開。

特に「企業型確定拠出年金(企業型DC)」を活用した退職金制度の構築に定評がある。従業員の将来設計を支える福利厚生の整備と、経営側のコスト効率化を両立させる専門的なスキームにより、採用力の強化と離職率の低下を同時に実現。数多くの中小企業における組織課題を解決へ導いてきた。

地域経済への貢献にも注力しており、地元メディア『愛媛経済レポート』にて採用定着をテーマとした連載を長期にわたり担当。また、AI技術を活用した情報発信のパイオニアとしても活動しており、YouTubeチャンネル『あいパートナーズ AI労働解説』やPodcast『博識な猫タマとクロの資料解説』を通じて、労働法や人事トレンドの最新情報を、経営者や人事担当者に向けて分かりやすく解説している。