役員の有給休暇の扱いと労働者との違いを理解するための制度解説

この記事は、企業の人事担当者や経営者、または役員自身が「役員の有給休暇」について正しく理解したい方に向けて執筆しています。
役員と従業員の有給休暇の違いや、労働基準法上の取り扱い、使用人兼務役員の場合の注意点、実務上の制度設計やトラブル防止策まで、幅広く解説します。
役員の休暇制度を検討する際や、社内規程の整備、税務・社会保険の観点からも役立つ内容となっています。

役員と有給休暇の基本的な考え方

会社の役員(取締役や代表取締役など)は、一般的に会社との間で雇用契約を結んでいるわけではなく、委任契約(または準委任契約)に基づいて職務を遂行しています。
そのため、労働基準法上の「労働者」には原則として該当しません。
労働者とは、会社の指揮命令下で労務を提供し、その対価として賃金を受け取る者を指しますが、役員は会社の経営や意思決定を担う立場であり、労働者とは異なる法的地位にあります。

そのため多くの場合、年次有給休暇の付与義務はない

労働基準法第39条に基づく年次有給休暇は、労働者に対して付与される制度です。
役員は労働者に該当しないため、会社は役員に対して有給休暇を付与する法的義務を負いません。
そのため、役員が休暇を取得する場合は、従業員のような「権利」としての有給休暇ではなく、会社の裁量や役員間の合意に基づいて調整されるのが一般的です。

ただし実態によっては「労働者性」が認められるケースがある

役員であっても、実際の働き方や職務内容によっては「労働者性」が認められる場合があります。
たとえば、取締役でありながら部長や工場長などの役職を兼務し、会社の指揮命令下で労務を提供している場合は、労働基準法上の労働者とみなされることがあります。
この場合、年次有給休暇の付与義務が発生する可能性があるため、役員の実態を正確に把握することが重要です。

区分 有給休暇の付与義務
一般役員(経営者) なし
使用人兼務役員(労働者性あり) あり(使用人部分のみ)

有給休暇が発生する「労働者性」の判断

勤務時間・勤務場所の厳格な拘束があるかどうか

役員が労働者とみなされるかどうかの判断基準の一つに、勤務時間や勤務場所の厳格な拘束があるかどうかがあります。
たとえば、毎日決まった時間に出社し、会社の定めた場所で業務を行うことが義務付けられている場合は、労働者性が強いと判断される傾向があります。
一方、役員として自由な裁量で働いている場合は、労働者性は認められにくくなります。

  • 定時出社・退社の義務がある
  • 会社指定の場所で業務を行う
  • 勤務時間の管理がされている

業務遂行について会社の指揮命令を受けているか

役員が会社の指揮命令下で業務を遂行しているかどうかも、労働者性を判断する重要なポイントです。
たとえば、上司や経営陣(取締役会など)から具体的な業務指示を受けている場合や、業務内容が細かく決められている場合は、労働者性が認められる可能性が高まります。
逆に、経営判断や業務遂行に大きな裁量がある場合は、労働者性は低くなります。

  • 上司からの業務指示がある
  • 業務内容が細かく決められている
  • 業務遂行の自由度が低い

経営判断権限の有無や裁量の大きさを総合的に見る

労働者性の有無は、勤務時間や指揮命令の有無だけでなく、経営判断権限や業務遂行の裁量の大きさも総合的に判断されます。
たとえば、会社の重要な意思決定に関与している場合や、業務の進め方を自ら決定できる場合は、労働者性は認められにくいです。
一方、経営判断に関与せず、与えられた業務を従業員と同様に遂行するだけの場合は、労働者性が強いとされます。

判断基準 労働者性が強い場合 労働者性が弱い場合
勤務時間・場所 厳格な拘束あり 自由な裁量
指揮命令 受けている 受けていない
経営判断権限 なし あり

取締役・代表取締役の有給休暇の扱い

会社の意思決定者として原則「労働者」とはみなされない

取締役や代表取締役は、会社の経営方針や重要事項の意思決定を担う立場にあります。
そのため、一般的な従業員とは異なり、労働基準法上の「労働者」とはみなされません。
このため、年次有給休暇の付与義務はなく、休暇の取得も従業員のような法的権利ではなく、役員自身や取締役会の裁量に委ねられることがほとんどです。

就業規則の対象外とし、役員規程等で別途運用するのが一般的

多くの企業では、就業規則は従業員を対象としており、役員はその適用外とされています。
役員の休暇や勤務に関するルールは、役員規程や取締役会規程など、別途定められた社内規程で運用するのが一般的です。
これにより、役員の休暇取得や報酬の取り扱いについて、会社ごとに柔軟な運用が可能となります。

  • 就業規則は従業員のみ対象
  • 役員は役員規程等で管理
  • 会社ごとに運用方法が異なる

休暇は「権利」ではなく「裁量」で調整するイメージとなる

役員の休暇は、従業員のような労働基準法上の「権利」として保障されているものではありません。
会社の経営状況や業務の都合、他の役員との調整などを踏まえ、役員自身や取締役会の裁量で取得することが一般的です。
このため、休暇取得のルールや手続きも会社ごとに異なり、明確な基準がない場合も多いのが実情です。

使用人兼務役員の場合の注意点

部長・工場長などとして雇用契約も結んでいるケース

役員でありながら、部長や工場長などの従業員としての役割を兼務している場合、「使用人兼務役員」と呼ばれます。
この場合、役員としての委任契約と、従業員としての雇用契約が併存することになります。
実際の業務内容や契約内容によっては、労働基準法上の労働者として扱われる部分が生じるため、注意が必要です。

使用人部分については有給休暇の付与義務が生じる

使用人兼務役員の場合、従業員としての業務(使用人部分)については、労働基準法が適用されます。
そのため、使用人部分の労働時間に対しては、年次有給休暇の付与義務が発生します。
一方、役員としての業務には有給休暇の付与義務はありませんので、両者を明確に区分して管理することが重要です。

役員報酬と給与(賃金)を明確に区分することが重要

使用人兼務役員の場合、役員報酬(委任契約に対する対価)と従業員としての給与(賃金)(雇用契約に対する対価)を明確に区分して支給する必要があります。
これにより、税務上や社会保険上の取り扱いが適切に行われ、トラブルを未然に防ぐことができます。
また、有給休暇の取得や賃金支払いについても、どちらの立場での取得かを明確にしておくことが求められます。

立場 有給休暇の付与 報酬の種類
役員 なし 役員報酬
使用人部分 あり(労働時間に応じて) 給与(賃金)

就業規則と役員の位置づけ

就業規則の適用対象は通常「労働者(従業員)」であり役員は含めない

就業規則は、労働基準法に基づき労働者の労働条件や服務規律を定めるものです。
そのため、原則として役員は就業規則の適用対象外となります。
役員の勤務や休暇に関するルールは、別途役員規程や取締役会規程などで定める必要があります。

役員に有給に類する休暇を与える場合は別規程で整備する

会社が役員に対して有給に類する休暇制度を設ける場合は、就業規則とは別に、役員規程や取締役会規程などで明文化しておくことが重要です。
これにより、休暇取得のルールや報酬の取り扱いが明確になり、社内外のトラブル防止につながります。

  • 役員規程や取締役会規程で休暇制度を整備
  • 取得方法や日数、報酬の扱いを明記
  • 従業員との違いを明確にする

従業員と役員の線引きを文書で明確にしておく

従業員と役員の区分が曖昧な場合、労務トラブルや税務リスクが生じる可能性があります。
そのため、雇用契約書や役員規程などの文書で、両者の役割や待遇、休暇制度の違いを明確にしておくことが重要です。
特に使用人兼務役員の場合は、どの業務が従業員としてのものか、役員としてのものかを明確に区分しておきましょう。

役員に休暇制度を設ける際のポイント

「有給休暇」ではなく「役員休暇」として設計する方法

役員に休暇制度を設ける場合、従業員の有給休暇と同じ制度を適用するのではなく、「役員休暇」として独自に設計するのが一般的です。
役員休暇は、法的な義務ではなく会社の裁量で設けるものであり、取得日数や取得方法、報酬の支払い方法などを会社ごとに自由に定めることができます。
このように独自の制度を設計することで、役員の業務や責任に応じた柔軟な運用が可能となります。

付与日数・取得方法・報酬支払の有無を規程化する

役員休暇制度を導入する際は、付与日数や取得方法、休暇中の報酬支払いの有無などを明確に規程化することが重要です。
たとえば、年間で取得できる日数や、休暇取得の申請手続き、休暇中の役員報酬の支払い方針などを役員規程や取締役会規程に記載します。
これにより、役員間の不公平感やトラブルを防ぐことができます。

  • 付与日数の明確化
  • 取得方法・申請手続きの整備
  • 休暇中の報酬支払い方針の明記

株主・他の役員との公平性も考慮して定める必要がある

役員休暇制度を設ける際は、株主や他の役員との公平性にも配慮する必要があります。
特定の役員だけが優遇されるような制度設計は、社内外の信頼を損なう原因となるため、全役員に対して公平な基準を設けることが望ましいです。
また、制度の内容や運用方法については、取締役会や株主総会での承認を得ておくと、透明性の高い運用が可能となります。

設計項目 ポイント
付与日数 全役員に公平な基準を設定
取得方法 申請・承認フローを明確化
報酬支払い 休暇中の支払い有無を明記

税務・社会保険上の留意点

役員休暇中の報酬支払は通常どおり「役員報酬」として扱われる

役員が休暇を取得している期間中も、通常は役員報酬が支払われます。
この場合、休暇中の報酬も「役員報酬」として税務・社会保険上の取り扱いがなされます。
従業員の有給休暇のように「賃金」として区分されるわけではないため、給与計算や社会保険の手続きも役員報酬として処理することになります。

有給休暇としての賃金支払とは性質が異なる点に注意

従業員の有給休暇は、労働基準法に基づき「賃金」として支払われますが、役員休暇中の報酬は「役員報酬」としての性質を持ちます。
この違いにより、税務上の経費処理(損金算入)や社会保険料の算定方法も異なります。
役員休暇を有給休暇と同様に扱うと、税務調査などで指摘を受けるリスクがあるため、制度設計時には十分な注意が必要です。

報酬減額や変動を行う場合は事前決定原則との関係を確認する

役員報酬は、原則として事前に株主総会や取締役会で決定しなければなりません(定期同額給与の原則)。
休暇取得を理由に報酬を減額したり、変動させたりする場合は、事前に株主総会等の決議でその旨を明確にしておく必要があります。
事後的な変更や、定められた額以外の支払いは、損金不算入とされるリスクがあるため、必ず事前に手続きを行いましょう(事前確定届出給与に該当しないかも確認)。

  • 役員報酬の事前決定が必須
  • 休暇取得による報酬変動は事前決議が必要
  • 税務・社会保険の専門家と連携する

トラブルを防ぐための実務対応

役員に有給休暇があると誤解させない周知

役員には原則として有給休暇がないことを、社内で明確に周知しておくことが重要です。
従業員と同じように有給休暇があると誤解されると、後々のトラブルや不満の原因となります。
役員規程や社内通知などで、役員の休暇制度の有無や内容を明確に伝えましょう。

使用人兼務役員については契約書と規程で役割を整理する

使用人兼務役員の場合、雇用契約書や役員規程で、役員としての業務と従業員としての業務を明確に区分しておくことが不可欠です。
これにより、有給休暇の付与範囲や報酬の支払い区分が明確になり、労務・税務トラブルを未然に防ぐことができます。
契約書や規程の整備は、専門家のアドバイスを受けながら進めると安心です。

曖昧な運用を避け、社労士・税理士と連携してルールを策定する

役員の休暇制度や報酬の取り扱いは、労務・税務の観点からも複雑な部分があります。
曖昧な運用を避けるためにも、社会保険労務士や税理士などの専門家と連携し、明確なルールを策定しましょう。
これにより、社内外の信頼性を高め、将来的なトラブルを防止することができます。

  • 役員規程や契約書の整備
  • 専門家との連携
  • 社内周知の徹底

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