労災・雇用保険の年度更新とは?賃金総額の計算から申告期限まで解説

この記事は、労働保険の年度更新について知りたい事業主や経理担当者向けに、手続きの流れや必要書類、計算方法などをわかりやすく解説します。 労働保険は、労災保険と雇用保険を含む重要な制度であり、年度更新は毎年必ず行わなければなりません。 この記事を通じて、年度更新の基本を理解し、スムーズに手続きを進めるための情報を提供します。

Table of Contents

労働保険の年度更新とは何か

労働保険の年度更新とは、労災保険と雇用保険の保険料を年に一度精算する手続きのことです。 この手続きは、前年度の賃金総額を基に確定保険料を算出し、次年度の概算保険料を申告することを目的としています。 年度更新は、労働者を雇用する事業所に義務付けられており、正確な手続きが求められます。 これにより、事業主は適切な保険料を支払うことができ、労働者は必要な保護を受けることができます。

労災保険・雇用保険を一体で精算する年1回の手続き

労働保険の年度更新は、労災保険と雇用保険を一体で精算する年に一度の重要な手続きです。 この手続きでは、前年度の賃金総額を基に、労災保険料と雇用保険料をそれぞれ算出します。 労災保険は、労働者が業務上の事故や病気に対して保障を受けるための保険であり、雇用保険は失業時の生活を支えるための保険です。 年度更新を通じて、これらの保険料を正確に算出し、適切に納付することが求められます。

毎年6月1日~7月10日が提出期限の理由

年度更新の提出期限は、毎年6月1日から7月10日までです。 この期間に手続きを行う理由は、労働保険の会計年度の終わりが3月31日であり、その後、事業主が前年度の賃金データを集計し、保険料を算出するための猶予期間が設けられているためです。 事業主は、この期間内に必要な書類を準備して提出しなければなりません。 期限を過ぎると、延滞金が発生する可能性があるため、注意が必要です。

年度更新の対象となる事業所

年度更新の対象となる事業所は、労働者を雇用する全ての事業所です。 これは、個人事業主や法人を問わず適用されます。 ただし、特例的な扱いがある場合もあるため、事業主は自社の状況を確認することが重要です。 以下に、年度更新の対象となる事業所の詳細を示します。

労働者を雇用する全ての事業所が対象

年度更新の対象は、労働者を1人でも雇用する全ての事業所です。 これは、企業の規模や業種、雇用形態に関係なく適用されます。 たとえば、製造業、サービス業、建設業など、さまざまな業種が含まれます。 このため、事業主は自社の労働者数を正確に把握し、年度更新の手続きを行う必要があります。

個人事業・法人での違いと特例的な扱い

個人事業主と法人では、年度更新の手続きにおいて大きな違いはありませんが、提出書類の一部が異なります。 また、特例的な扱いとして、建設業などの有期事業や、事務組合に労働保険事務を委託している事業所については、手続きや計算方法に特別なルールが適用されます。 事業主は、自社の状況に応じて、適切な手続きを確認することが重要です。

有期事業(建設業・一括有期)の特別ルール

建設業や一括有期の事業所には、年度更新に関する特別なルールがあります。 これらの事業所は、労働者の雇用形態が変動しやすいため、確定保険料の算出方法が通常の継続事業とは異なります。 具体的には、工事の請負金額などを基に賃金総額を推定し、特別な計算が必要です。 事業主は、これらのルールを理解し、適切に手続きを行うことが求められます。

年度更新で提出する書類

年度更新を行う際には、いくつかの書類を提出する必要があります。 これらの書類は、労働保険料の算出や申告に必要な情報を提供するためのものであり、正確に準備することが重要です。 以下に、年度更新で必要な主な書類を示します。

概算保険料申告書

概算保険料申告書は、次年度の概算保険料を申告するための書類です。 事業主は、前年度の賃金総額を参考に、次年度の賃金見込み額を記入します。 この書類は、年度更新の際に必ず提出しなければならない重要な書類です。 正確な見込み額を記入することで、適切な保険料を算出することができます。

確定保険料申告書

確定保険料申告書は、前年度の実際の賃金総額を基に確定した保険料を申告するための書類です。 事業主は、前年度の賃金データを集計し、正確な保険料を算出してこの書類に記入します。 確定保険料申告書は、年度更新の際に必ず提出する必要があります。 この書類により、前年度に納付した概算保険料との差額を精算します。

賃金総額報告書

賃金総額報告書は、前年度に支払った賃金の総額を報告するための書類です。 この報告書には、労働者ごとの賃金データが含まれ、正確な賃金総額を算出するために必要です。 事業主は、賃金総額報告書を正確に作成し、年度更新の際に提出することが求められます。

保険料算定内訳書と添付書類

保険料算定内訳書は、保険料の算出根拠を示すための書類です。 この書類には、賃金の内訳や労働者の区分などが詳細に記載されます。 また、必要に応じて、労働保険事務組合への委託証明書などの添付書類を提出することも求められます。 事業主は、これらの書類を正確に準備し、年度更新の際に提出することが重要です。

年度更新の計算に必要な基礎データ

年度更新を行う際には、正確な計算を行うための基礎データが必要です。 これには、労働者の賃金総額や保険料率などが含まれます。 以下に、年度更新の計算に必要な基礎データの詳細を示します。

労働者の賃金総額の集計方法

労働者の賃金総額は、前年度(4月1日から翌年3月31日まで)に支払った賃金を集計して算出します。 具体的には、基本給、手当、残業代、通勤手当、賞与など、労働の対価として支払われたすべてのものを合算する必要があります。 正確な賃金総額を把握することで、適切な保険料を算出することができます。

対象となる賃金・対象外となる賃金の区分

労働保険の対象となる賃金は、労働の対価として支払われるすべてのものです。 対象となる賃金には、基本給、手当(通勤手当を含む)、残業代、賞与が含まれます。 一方、対象外となる賃金には、退職金、結婚祝い金、見舞金など、恩恵的な給付や臨時の支払いなどが含まれます。 事業主は、これらの区分を正確に理解し、賃金総額を算出することが求められます。

労災保険料率・雇用保険料率の確認ポイント

労災保険料率と雇用保険料率は、年度ごとに変更されることがあります。 労災保険料率は事業の種類によって異なり、雇用保険料率は一般の事業と農林水産・清酒製造業などで異なります。 事業主は、最新の料率を確認し、正確な保険料を算出する必要があります。 これにより、適切な保険料を納付し、労働者を守ることができます。

労災保険の確定保険料の計算方法

労災保険の確定保険料は、前年度の賃金総額に基づいて算出されます。 具体的には、前年度の4月から翌年の3月までの賃金総額に、適用される労災保険料率を乗じて計算します。 この計算方法を理解することで、正確な保険料を算出し、適切に納付することが可能になります。

前年度(4月~翌3月)の賃金総額に料率を乗じて算出

労災保険の確定保険料は、前年度の賃金総額に労災保険料率を掛けて算出します。 たとえば、前年度の賃金総額が1,000万円で、労災保険料率が0.3%の場合、確定保険料は3万円となります。 この計算を正確に行うことで、適切な保険料を納付することができます。

労働者区分(一般・建設・船員など)による違い

労災保険料は、労働者の区分によって異なる料率が適用されます。 一般労働者、建設業、船員など、それぞれの業種に応じた料率が設定されています。 事業主は、自社の労働者の区分を確認し、適切な料率を適用することが求められます。

出向労働者・派遣労働者の扱い

出向労働者や派遣労働者の賃金については、特別な取り扱いが必要です。 出向労働者は、原則として賃金支払事業所(出向元)での賃金を基に保険料を算出します。 派遣労働者についても、賃金支払事業所である派遣元の事業所が保険料を負担することが多いため、注意が必要です。

雇用保険の確定保険料の計算方法

雇用保険の確定保険料も、労災保険と同様に前年度の賃金総額を基に算出されます。 雇用保険は、一般被保険者と高年齢被保険者で料率が異なるため、正確な計算が求められます。 以下に、雇用保険の確定保険料の計算方法を詳しく解説します。

一般被保険者・高年齢被保険者の区分

雇用保険の料率は、一般被保険者と高年齢被保険者で異なります。 一般被保険者の料率は、通常の労働者に適用されるものであり、高年齢被保険者は、65歳以上の労働者に適用される特別な料率が設定されています。 事業主は、労働者の区分を正確に把握し、適切な料率を適用することが重要です。

事業主負担分・労働者負担分の内訳

雇用保険の保険料は、事業主と労働者がそれぞれ負担します。 具体的には、事業主負担分と労働者負担分があり、これらの内訳を正確に把握することが求められます。 事業主は、給与明細などで労働者負担分を明示し、透明性を持たせることが重要です。

対象賃金の計算と給与控除の整合性

雇用保険の対象賃金には、基本給や手当が含まれますが、特定の控除が適用される場合もあります。 事業主は、対象賃金を正確に計算し、給与控除との整合性を確認することが求められます。 これにより、適切な保険料を算出し、労働者を守ることができます。

年度更新で行う概算保険料の算定方法

年度更新では、次年度の概算保険料を算出する必要があります。 これには、来期の賃金総額見込み額を基にした計算が必要です。 以下に、概算保険料の算定方法を詳しく解説します。

来期の賃金総額見込み額の算定基準

来期の賃金総額見込み額は、過去の賃金データや事業の成長見込みを基に算出します。 事業主は、前年の賃金総額を参考にしつつ、今後の業務計画を考慮して見込み額を設定することが重要です。 前年度の賃金総額の1.5倍(150%)を超えたり、0.5倍(50%)未満になったりする場合は、適切な根拠を示す必要があります。 これにより、適切な概算保険料を算出することができます。

繁忙期・季節要因の調整方法

事業によっては、繁忙期や季節要因が賃金に影響を与えることがあります。 これらの要因を考慮して、来期の賃金総額見込み額を調整することが求められます。 事業主は、過去のデータを分析し、適切な調整を行うことが重要です。

事業規模拡大・縮小を見込む場合の注意点

事業規模の拡大や縮小を見込む場合、賃金総額の見込み額を適切に調整する必要があります。 特に、大幅な労働者の増減がある場合は、その根拠を明確にして申告することが求められます。 事業主は、労働者の雇用状況や業務の変化を考慮し、正確な見込み額を設定することが求められます。 これにより、適切な概算保険料を算出し、労働者を守ることができます。

年度更新で多い計算ミスと注意点

年度更新の手続きでは、計算ミスが発生しやすいポイントがいくつかあります。 これらのミスを避けるためには、事前に注意点を把握し、正確なデータを基に手続きを行うことが重要です。 以下に、年度更新で多い計算ミスとその注意点を示します。

賃金総額に通勤手当・賞与を含め忘れるケース

賃金総額を算出する際に、通勤手当や賞与(年3回以下の臨時的なものを除く)を含め忘れるケースが多く見られます。 これにより、実際の賃金総額が過小評価され、保険料が不足する可能性があります。 事業主は、賃金総額を算出する際に、労働の対価として支払ったすべての手当を含めることを確認することが重要です。

役員報酬を誤って含めてしまうケース

役員の報酬は、原則として労働保険の算定対象となる賃金総額には含めません。 しかし、役員であっても、部長や工場長などの労働者的性格を持つ兼務役員として賃金を支払われている場合は、その労働部分の賃金のみを算定対象に含めることになります。 事業主は、役員報酬の取り扱いについて正確に理解し、誤って含めないように注意することが重要です。

雇用保険対象者の期間区分の誤り

雇用保険の対象者について、期間区分を誤るケースもあります。 たとえば、短期雇用の労働者を対象外とするべきところを誤って含めてしまうことがあります。 事業主は、労働者の雇用形態を正確に把握し、適切な区分を適用することが求められます。

出向者・休業者の賃金処理を誤るケース

出向者や休業者の賃金処理についても、誤りが発生しやすいポイントです。 出向者の賃金は出向元の事業所での賃金を基に算出する必要がありますが、これを誤って処理してしまうことがあります。 また、休業手当は賃金総額に含まれますが、これを誤って除外してしまうこともあります。 事業主は、出向者や休業者の賃金処理を正確に行うことが重要です。

建設業にありがちな事業区分の誤記載

建設業では、事業区分の誤記載が多く見られます。 これにより、適用される保険料率が異なる場合があり、結果として保険料が不適切に算出されることがあります。 事業主は、事業区分を正確に記載し、適切な保険料を算出することが求められます。

年度更新の提出方法

年度更新の手続きは、いくつかの方法で提出することができます。 事業主は、自社の状況に応じて最適な方法を選択し、期限内に手続きを行うことが重要です。 以下に、年度更新の提出方法を詳しく解説します。

労働局または労基署窓口への提出方法

年度更新の書類は、労働局または労基署の窓口に直接提出することができます。 この場合、必要な書類をすべて揃え、窓口での手続きを行います。 窓口での提出は、書類の不備をその場で確認できるため、安心感があります。

電子申請(e-Gov)を利用する場合のポイント

電子申請を利用する場合、e-Govを通じて手続きを行うことができます。 この方法では、インターネットを通じて書類を提出できるため、時間や場所を選ばずに手続きが可能です。 事業主は、電子申請の手順を事前に確認し、スムーズに手続きを進めることが重要です。

郵送提出時の注意点と控えの受領方法

郵送で提出する場合、書類を正確に記入し、必要な書類を同封することが求められます。 郵送時には、控えを受領するために、返信用封筒を同封することが重要です。 これにより、提出した書類の控えを確保し、後日確認することができます。

年度更新後に必要な手続き

年度更新が完了した後も、いくつかの手続きが必要です。 これらの手続きを適切に行うことで、労働保険の管理をスムーズに進めることができます。 以下に、年度更新後に必要な手続きを示します。

労働保険料の納付(口座振替・分割納付)

年度更新後、確定した労働保険料を納付する必要があります。 納付方法には、口座振替や分割納付があり、事業主は自社の状況に応じて選択することができます。 特に、概算保険料が一定額以上の場合、分割納付が可能です。 適切な納付を行うことで、労働者を守るための保険が維持されます。

納期限に遅れた場合の延滞金・督促

納期限に遅れた場合、延滞金が発生する可能性があります。 事業主は、納期限を厳守し、遅れないように注意することが重要です。 延滞金が発生すると、追加の負担が生じるため、適切な管理が求められます。

労働保険番号の管理と帳票保存義務

年度更新後は、労働保険番号の管理が重要です。 事業主は、労働保険番号を正確に管理し、必要な帳票を保存する義務があります。 これにより、将来的な確認や監査に備えることができます。

年度更新でよくある質問

年度更新に関する疑問や不明点は多くあります。 以下に、よくある質問とその回答を示し、事業主がスムーズに手続きを進めるための参考にしていただければと思います。

パート・アルバイトの賃金も含めるのか

パートやアルバイトの賃金も、労働者として雇用されている場合は賃金総額に含める必要があります。 これにより、適切な保険料を算出することができます。

役員の報酬は年度更新に含めるのか

役員の報酬については、原則として年度更新に含めません。 ただし、労働者としての側面を持つ兼務役員の賃金については、その労働部分の賃金のみを含める必要があります。

休業手当や賞与の扱いはどうなるのか

休業手当は、原則として賃金総額に含めます。 賞与についても、年3回以下の臨時的なものを除く、労働の対価として支払われるものは、賃金総額に含める必要があります。 事業主は、これらの取り扱いについて正確に理解し、適切に処理することが求められます。

年度途中での閉鎖・移転がある場合の処理

年度途中で事業所を閉鎖または移転する場合、年度更新の手続きに特別な処理が必要です。 特に閉鎖の場合は、確定精算の手続きを速やかに行う必要があります。 事業主は、これらの状況を考慮し、適切な手続きを行うことが重要です。

この記事を書いた人

岩本浩一社会保険労務士・採用定着士
岩本 浩一(いわもと こういち)
社会保険労務士法人あいパートナーズ 代表社員

採用と定着に特化した人事労務のスペシャリスト。愛媛県社会保険労務士会所属(登録番号:3806011)。愛媛県松山市を拠点に、地元企業のみならず全国の企業の組織成長を支援している。「人手不足を解消し、持続可能な組織をつくる」ことをミッションに掲げ、理論と現場のリアリティを融合させたコンサルティングを展開。

特に「企業型確定拠出年金(企業型DC)」を活用した退職金制度の構築に定評がある。従業員の将来設計を支える福利厚生の整備と、経営側のコスト効率化を両立させる専門的なスキームにより、採用力の強化と離職率の低下を同時に実現。数多くの中小企業における組織課題を解決へ導いてきた。

地域経済への貢献にも注力しており、地元メディア『愛媛経済レポート』にて採用定着をテーマとした連載を長期にわたり担当。また、AI技術を活用した情報発信のパイオニアとしても活動しており、YouTubeチャンネル『あいパートナーズ AI労働解説』やPodcast『博識な猫タマとクロの資料解説』を通じて、労働法や人事トレンドの最新情報を、経営者や人事担当者に向けて分かりやすく解説している。