インフルエンザで休むとき有給は使える?会社の対応と法律を解説

この記事は、インフルエンザにかかった際の年次有給休暇(年休)の利用、会社の休業命令、賃金支払いの義務といった、複雑な労務上の取り扱いについて、企業の経営者、人事担当者、およびすべての労働者を対象に、法律の観点から詳細に解説します。 インフルエンザによる欠勤が有給として認められるかという基本的な疑問から、会社が負う安全配慮義務や法的なリスクまでを網羅し、労働者と雇用者の双方にとって重要な情報を提供し、理解を深めることを目的としています。

インフルエンザで休む場合の有給の扱いと法的な原則

インフルエンザに罹患した場合、労働者は法的に保障された年次有給休暇を取得することができます。インフルエンザによる休業は「私傷病」扱いで、労働者が自主的に年休の時季を指定して休むことが原則です。 会社は、従業員がインフルエンザにかかった場合であっても、年次有給休暇の申請を拒否することは原則としてできません。これは、労働者の健康と生活を保障するための労働基準法上の重要な権利です。

インフルエンザによる休業でも年次有給休暇は取得できる

労働基準法第39条に基づき、労働者は、その休む理由や目的を問わず、年次有給休暇を取得する権利があります。これは「時季指定権」と呼ばれ、労働者が「この日に休む」と指定すれば、その日に年休を取得できるのが原則です。 インフルエンザは、有給休暇の取得目的として何ら問題のない「私傷病」です。労働者が健康を回復するために休むことは正当な理由であるため、会社は労働者の申請を尊重し、年休利用を認める必要があります。

会社が年休の時季指定を拒否できない理由

会社が年次有給休暇の取得を拒否できるのは、労働者が指定した時期に休むことで「事業の正常な運営を妨げる場合」に限られます(時季変更権)。しかし、インフルエンザのように労働者が既に病気で労務提供ができない状態にある場合、会社には「時季変更権」を行使する余地はありません。 なぜなら、時季変更権は「働くことができる労働者」に対し、「休む時期をずらしてほしい」と要請する権利であり、インフルエンザで労務不能な状態の労働者に「働け」と命じることは、安全配慮義務や感染症対策の観点からも許されないからです。 したがって、インフルエンザによる病気欠勤を後から有給休暇に振り替える申請に対しても、会社は原則として拒否することはできません。

インフルエンザ休業の「私傷病扱い」と賃金・休暇の法的根拠

インフルエンザは業務外の個人的な病気であるため、労働災害(労災)となる特殊なケースを除き、一般的には「私傷病」として扱われます。この私傷病としての扱いは、休業期間中の賃金支払い義務や、利用できる休暇の種類に大きく関わってきます。

インフルエンザ休業中の賃金支払いの法的義務

私傷病による休業中、会社は労働者に対して賃金を支払う法的な義務は原則としてありません。これは「ノーワーク・ノーペイの原則」に基づきます。労働者が労働力を提供できない以上、会社も賃金を支払う義務を負わない、という考え方です。 そのため、労働者が有給休暇を申請しない場合や、有給休暇が残っていない場合は、休業期間は欠勤扱いとなり、賃金は支払われません。会社が特別に賃金を支払うかどうかは、就業規則や個別の労働契約、または会社の福利厚生制度の有無によります。

有給がない場合の欠勤扱いと傷病手当金

年次有給休暇が残っていない場合、インフルエンザによる休業期間は無給の「欠勤扱い」となります。 しかし、連続する3日間(待期期間)を含む4日以上仕事を休み、給与の支払いがない場合、健康保険から「傷病手当金」が支給される可能性があります。傷病手当金は、療養のために労務不能となった場合に、生活を保障するために支給されるものであり、労働者の生活維持に重要な役割を果たします。労働者は自身の健康保険組合に対し、支給要件を満たしているか確認することが重要です。

会社が負う安全配慮義務と休業命令の法的な考察

インフルエンザのような感染症のケースでは、単なる私傷病の休業としてだけでなく、会社が他の従業員や顧客の安全を守るために「休業を命じる」法的義務と、それに伴う賃金支払い義務が発生する可能性が出てきます。

インフルエンザ出社命令が安全配慮義務違反となる理由

会社は、労働契約法第5条に基づき、すべての従業員に対して安全配慮義務を負っています。これは、労働者がその生命及び健康等を危険から守るために必要な配慮をする義務です。 インフルエンザに罹患した従業員に対し、治癒していない状態で出社を命じることは、他の従業員や顧客に感染を広げるリスクを意図的に高める行為であり、明確な安全配慮義務違反となる可能性が極めて高いです。これにより、企業は民事上の損害賠償責任を問われるリスクが生じます。

会社が「休業命令」を出した場合の賃金支払い義務

会社が、感染拡大防止を目的として、インフルエンザに罹患した従業員に「出社停止」や「休業」を命じた場合、それが会社の都合による休業と判断される可能性があります。労働基準法第26条では、使用者の責に帰すべき事由による休業の場合、会社は休業期間中、平均賃金の60%以上の休業手当を支払う義務があります。 ただし、インフルエンザは五類感染症であり、「不可抗力」と判断される余地もありますが、安全配慮義務を履行する観点から休業を命じた場合は、休業手当の支払い義務が発生する可能性が高いと解釈されています。

休業の形態賃金/手当の支払い義務法的根拠
労働者による年休の時季指定全額支払う(年休利用のため)労働基準法第39条
年休を使い切った上での欠勤支払義務なし(無給)ノーワーク・ノーペイの原則
会社による休業命令(感染拡大防止)休業手当(平均賃金の60%以上)の支払い義務が発生する可能性が高い労働基準法第26条(使用者の責に帰すべき事由による休業)

出社可能時期の判断基準と学校保健安全法の位置づけ

インフルエンザからの回復後、いつから出社を再開できるかという判断は、感染拡大防止の鍵となります。企業は、感染症法上の配慮と、合理的な基準を設ける必要があります。

学校保健安全法の基準を参考にするケースの注意点

学校保健安全法では、インフルエンザの出席停止期間について、「発症した後5日を経過し、かつ、解熱した後2日(幼児にあっては、3日)を経過するまで」と定めています。 企業は、この学校保健安全法の基準を法的に適用する義務はありません。あくまでこれは学校教育の場における基準です。しかし、インフルエンザ対策の社会的な指針として広く知られているため、多くの企業がこの基準を参考にして、就業規則や内規で出勤停止期間を定めています。

企業が独自に定めるべき出社判断の目安

企業が定める出社可能時期は、医師の診断書や、発症日・解熱日を基準にした合理的な期間に基づいて定めるべきです。一般的な目安として、上記の「発症後5日・解熱後3日」を参考にすることが推奨されます。 重要なのは、就業規則に明確に出勤停止期間を規定し、その期間中は出社を控えるよう徹底することです。これにより、安全配慮義務を履行する姿勢を示すことにもつながります。

基準期間企業での扱い
学校保健安全法発症後5日経過、かつ解熱後2日(幼児は3日)経過まで企業に適用義務はないが、感染防止の指針として参照される
企業が定める目安発症後5日経過、かつ解熱後3日経過まで就業規則に定めることで、安全配慮義務履行の一環となる

会社の特別休暇制度とインフルエンザの労災認定

病気休暇・積立有給など独自制度の積極的な活用

労働基準法上の年次有給休暇とは別に、企業が就業規則で定める「病気休暇」や「感染症休暇」といった特別休暇制度がある場合、労働者はこれを利用することができます。 特に、感染症の蔓延期には、年休を温存し、特別休暇を利用できるようにすることは、従業員の安心感と職場全体の感染拡大防止意識を高める上で非常に有効な手段となります。また、「積立有給制度」があれば、時効消滅した年休を積み立てて病気療養に充てることも可能です。

インフルエンザが労災となる特殊なケースと業務起因性

インフルエンザは原則として私傷病ですが、極めて特殊なケースでは、労働災害(労災)として認定される可能性があります。主に、業務起因性が認められる必要があります。 具体的には、医療従事者や介護職員など、業務の性質上、不特定多数の患者や感染源と日常的に接触せざるを得ない職場で、業務が原因となって感染したと認められる場合です。この場合、労災保険から休業補償給付などが支給されるため、該当する労働者は速やかに労災申請を検討することが重要です。

まとめ:インフルエンザ時は有給取得と休業徹底が原則

インフルエンザにかかった場合、労働者は年次有給休暇を取得する権利を持ち、会社はこれを拒否できません。最も重要なことは、感染拡大を防ぐために適切な休業を徹底することと、会社が安全配慮義務を果たすことです。 労働者と会社の双方が、法律上の権利と義務を正しく理解し、適切な対応を行うことで、安心して療養できる環境を整え、職場全体の健康を守ることができます。

会社・労働者双方が守るべき法的・実務的ポイント

  • 【会社側】インフルエンザ罹患が判明した場合、他の社員の安全配慮のため、速やかに休業を命令し、安易な出社を認めない。
  • 【会社側】休業期間を定めた就業規則の規定(出勤停止規定)に従い、必要に応じて休業手当(労基法第26条)の支払いを検討する。
  • 【労働者側】休業期間中の賃金を確保するため、残っている年次有給休暇を時季指定する。
  • 【労働者側】年休がない場合、健康保険の傷病手当金の申請を検討する。

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この記事を書いた人

岩本浩一社会保険労務士・採用定着士
岩本 浩一(いわもと こういち)
社会保険労務士法人あいパートナーズ 代表社員

採用と定着に特化した人事労務のスペシャリスト。愛媛県社会保険労務士会所属(登録番号:3806011)。愛媛県松山市を拠点に、地元企業のみならず全国の企業の組織成長を支援している。「人手不足を解消し、持続可能な組織をつくる」ことをミッションに掲げ、理論と現場のリアリティを融合させたコンサルティングを展開。

特に「企業型確定拠出年金(企業型DC)」を活用した退職金制度の構築に定評がある。従業員の将来設計を支える福利厚生の整備と、経営側のコスト効率化を両立させる専門的なスキームにより、採用力の強化と離職率の低下を同時に実現。数多くの中小企業における組織課題を解決へ導いてきた。

地域経済への貢献にも注力しており、地元メディア『愛媛経済レポート』にて採用定着をテーマとした連載を長期にわたり担当。また、AI技術を活用した情報発信のパイオニアとしても活動しており、YouTubeチャンネル『あいパートナーズ AI労働解説』やPodcast『博識な猫タマとクロの資料解説』を通じて、労働法や人事トレンドの最新情報を、経営者や人事担当者に向けて分かりやすく解説している。