出勤停止中の給与は支払う必要があるのか?企業が知るべき実務と法的ポイント

この記事は、企業の人事担当者や経営者を対象に、出勤停止処分とその給与取り扱いについて解説します。 出勤停止は懲戒処分の一環であり、従業員の非違行為に対する制裁として行われますが、給与の支払いについては多くの誤解が存在します。 この記事では、出勤停止の定義、給与の取り扱い、要件、日数の決定方法、無効となる場合、そして企業が注意すべき実務ポイントについて詳しく説明します。

出勤停止処分とは

懲戒処分の一種で一定期間の就労を禁止する措置

出勤停止処分は、従業員に対する懲戒処分の一つであり、特定の期間、従業員が業務に従事することを禁止する措置です。 これは、従業員が就業規則に違反した場合に適用されることが一般的です。 出勤停止は、従業員に対する制裁としての意味合いを持ち、企業がその行為に対して適切な対応を行うための手段となります。 出勤停止の期間は、企業の就業規則や具体的な事例に基づいて決定されますが、通常は数日から数週間程度です。

社員の非違行為に対して行われる中程度の処分

出勤停止は、社員の非違行為に対する中程度の懲戒処分と位置付けられています。 これは、軽微な違反に対しては注意や警告が行われる一方で、重大な違反に対しては解雇などの重い処分が適用されることが一般的です。 出勤停止は、従業員に対してその行為の重大性を認識させるための手段としても機能します。 企業は、出勤停止を適用する際には、その理由や根拠を明確にし、適切な手続きを踏むことが求められます。

就業規則に明確な根拠がある場合のみ有効となる

出勤停止処分は、企業の就業規則に明確な根拠がある場合にのみ有効とされます。これは労働契約法第15条が定める懲戒処分の原則です。 就業規則には、出勤停止の適用条件や期間、手続きについて詳細に記載されている必要があります。 これにより、従業員は自らの行動がどのような結果をもたらすかを理解しやすくなります。 また、企業側も法的なリスクを回避するために、就業規則の整備が重要です。 出勤停止処分が不当とされるリスクを避けるためには、透明性のある運用が求められます。

出勤停止中の給与の取り扱い

原則として出勤停止期間中は「無給」とするのが一般的

出勤停止期間中の給与については、原則として無給とされるのが一般的です。これは、労働を提供していないため賃金を支払う義務がないとする「ノーワーク・ノーペイの原則」に基づくものです。 企業は、出勤停止の理由や期間を明確にし、従業員に対してその旨を通知することが重要です。 無給とすることで、従業員に対してその行為の重大性を認識させる効果も期待されます。

ただし就業規則に給与支給の定めがあれば例外がある

ただし、企業の就業規則に出勤停止期間中の給与支給に関する明確な定めがある場合には、例外が適用されることがあります。 例えば、出勤停止中でも一定の給与を支給する旨が規定されている場合、企業はその規定に従う必要があります。 このような場合、企業は就業規則に基づいて適切に対応することが求められます。 従業員に対しても、就業規則に基づく説明を行うことで、理解を得ることが重要です。

賃金控除の不利益性に配慮した慎重な運用が求められる

出勤停止による賃金控除は、従業員にとって大きな不利益となるため、企業は慎重に運用する必要があります。 特に、出勤停止の理由や期間が不明確な場合、従業員からの不満や訴訟リスクが高まる可能性があります。 企業は、出勤停止の理由を明確にし、適切な手続きを踏むことで、従業員との信頼関係を維持することが重要です。 また、賃金控除に関するルールを明確にし、従業員に対して十分な説明を行うことが求められます。

出勤停止にするための要件

事実確認・調査を行い非違行為を明確にすること

出勤停止処分を行うためには、まず事実確認と調査を行い、従業員の非違行為を明確にする必要があります。 企業は、従業員が実際にどのような行為を行ったのかを正確に把握し、その行為が就業規則に違反しているかどうかを判断しなければなりません。 調査は公正かつ客観的に行うことが求められ、必要に応じて証拠を収集することも重要です。 これにより、出勤停止処分が適切であることを証明する基盤が築かれます。

本人に弁明の機会を与える必要がある

出勤停止処分を適用する際には、従業員に対して弁明の機会を与えることが法律上求められています。 これは、従業員が自らの行為について説明し、反論する機会を持つことで、公正な手続きを確保するためです。就業規則に弁明の機会付与に関する規定がある場合は、これを厳守する必要があります。 企業は、弁明の機会を与えることで、従業員の権利を尊重し、適切な判断を下すための情報を得ることができます。 弁明の機会を設けることは、企業の信頼性を高める要素ともなります。

処分が重すぎる場合は懲戒権濫用と判断されるリスク

出勤停止処分が重すぎる場合、懲戒権の濫用と判断されるリスクがあります。 企業は、出勤停止の期間や内容が適切であるかどうかを慎重に検討する必要があります。 過度な処分は、従業員の権利を侵害することになり、法的な問題を引き起こす可能性があります。 したがって、企業は出勤停止の理由や背景を十分に考慮し、適切な処分を行うことが求められます。

出勤停止日数の決め方

行為の重大性に応じて合理的な日数で設定する

出勤停止の日数は、従業員の行為の重大性に応じて合理的に設定する必要があります。 企業は、行為の内容や影響を考慮し、適切な日数を決定することが求められます。 例えば、軽微な違反に対しては短期間の出勤停止が適用される一方で、重大な違反に対しては長期間の出勤停止が必要とされることがあります。 合理的な日数の設定は、企業の信頼性を高める要素となります。

長期にわたる出勤停止は無効となる可能性

出勤停止が長期にわたる場合、その処分が無効とされる可能性があります。期間設定においては、「減給の制裁」の上限規定(平均賃金の半額、一賃金支払期の10分の1)を参考にし、それを大きく超える不利益とならないよう配慮することが望ましいです。 特に、出勤停止が不当に長いと判断されると、従業員からの訴訟リスクが高まります。 企業は、出勤停止の期間を適切に設定し、必要に応じて見直すことが重要です。 長期の出勤停止は、従業員の生活に大きな影響を与えるため、慎重な判断が求められます。

懲戒解雇とのバランスを踏まえた判断が重要

出勤停止の判断においては、懲戒解雇とのバランスを考慮することが重要です。 企業は、出勤停止が適切な処分であるかどうかを検討し、懲戒解雇に至るべきかどうかを慎重に判断する必要があります。 出勤停止が適切である場合でも、その期間や内容が過度であれば、懲戒権の濫用と見なされるリスクがあります。 したがって、企業は出勤停止の判断を行う際に、全体の状況を考慮することが求められます。

出勤停止が無効となる場合

就業規則に根拠がない懲戒処分は無効となる

出勤停止処分が無効となる場合の一つは、就業規則に根拠がない場合です。 企業は、出勤停止を適用する際には、必ず就業規則に基づいて行う必要があります。 就業規則に明確な規定がない場合、出勤停止は不当とされる可能性があります。 したがって、企業は就業規則を整備し、従業員に対してその内容を周知することが重要です。

事実誤認や不十分な調査による処分は無効リスク

出勤停止処分が事実誤認や不十分な調査に基づいて行われた場合、その処分は無効とされるリスクがあります。 企業は、従業員の行為について正確な情報を収集し、適切な調査を行うことが求められます。 調査が不十分であったり、誤った情報に基づいて処分が行われた場合、従業員からの訴訟リスクが高まります。 したがって、企業は慎重な調査を行うことが重要です。

処分量刑が重すぎる場合は不当と判断され得る

出勤停止の処分量刑が重すぎる場合、その処分は不当と判断される可能性があります。 企業は、出勤停止の期間や内容が適切であるかどうかを慎重に検討する必要があります。 過度な処分は、従業員の権利を侵害することになり、法的な問題を引き起こす可能性があります。 したがって、企業は出勤停止の判断を行う際に、全体の状況を考慮することが求められます。

企業が注意すべき実務ポイント

賃金控除の理由と根拠を文書で明確にする

企業は、出勤停止による賃金控除の理由と根拠を文書で明確にすることが重要です。 これにより、従業員に対して透明性を持った説明が可能となり、信頼関係を維持することができます。 文書には、出勤停止の理由、期間、賃金控除の根拠を明記し、従業員に対して適切に通知することが求められます。 これにより、後々のトラブルを未然に防ぐことができます。

処分内容・期間・理由を本人に書面で通知する

出勤停止処分を行う際には、処分内容、期間、理由を従業員に書面で通知することが求められます。 書面による通知は、従業員に対して処分の正当性を説明するための重要な手段です。 また、書面での通知は、後々のトラブルを避けるためにも重要です。 企業は、通知内容を明確にし、従業員に対して十分な説明を行うことが求められます。

社労士・弁護士と連携してリスクを最小化する

出勤停止処分を行う際には、社労士や弁護士と連携してリスクを最小化することが重要です。 専門家の意見を取り入れることで、法的なリスクを回避し、適切な手続きを踏むことができます。 また、社労士や弁護士は、企業の就業規則の整備や運用に関するアドバイスを提供することができるため、企業の信頼性を高める要素ともなります。 企業は、専門家との連携を強化することで、出勤停止に関するリスクを最小限に抑えることができます。

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この記事を書いた人

岩本浩一社会保険労務士・採用定着士
岩本 浩一(いわもと こういち)
社会保険労務士法人あいパートナーズ 代表社員

採用と定着に特化した人事労務のスペシャリスト。愛媛県社会保険労務士会所属(登録番号:3806011)。愛媛県松山市を拠点に、地元企業のみならず全国の企業の組織成長を支援している。「人手不足を解消し、持続可能な組織をつくる」ことをミッションに掲げ、理論と現場のリアリティを融合させたコンサルティングを展開。

特に「企業型確定拠出年金(企業型DC)」を活用した退職金制度の構築に定評がある。従業員の将来設計を支える福利厚生の整備と、経営側のコスト効率化を両立させる専門的なスキームにより、採用力の強化と離職率の低下を同時に実現。数多くの中小企業における組織課題を解決へ導いてきた。

地域経済への貢献にも注力しており、地元メディア『愛媛経済レポート』にて採用定着をテーマとした連載を長期にわたり担当。また、AI技術を活用した情報発信のパイオニアとしても活動しており、YouTubeチャンネル『あいパートナーズ AI労働解説』やPodcast『博識な猫タマとクロの資料解説』を通じて、労働法や人事トレンドの最新情報を、経営者や人事担当者に向けて分かりやすく解説している。