2028年雇用保険改正とは?週10時間以上への適用拡大と企業の対応

この記事は企業の人事担当者や経営者、社労士、そして雇用保険の適用拡大に関心がある労働者を主な対象にしています。
2028年に施行される雇用保険改正のポイントである「週10時間以上への適用拡大」について、改正の概要、施行日、目的、企業や従業員への具体的な影響、事務対応のポイントや就業規則の見直し方までをわかりやすく整理して解説します。
この記事を読むことで、どの従業員が新たに加入対象になるのか、企業が今から何を準備すべきか、現場で注意するべき実務上の落とし穴がどこにあるかを把握できるようにしています。

2028年雇用保険改正とは

改正の概要

2028年の雇用保険改正は、これまで加入要件とされてきた「週20時間以上」の基準を引き下げ、より短時間で働く労働者にも雇用保険の適用を拡大する点が最大の特徴です。
この改正によりパートタイマーや短時間労働者の保護が手厚くなり、失業時の給付や育児・介護と両立するための各種給付の利用機会が増えます。
企業側は対象者の把握、保険料計算、事務手続きの増加といった対応が求められるため、早めの準備が重要になります。

施行日は2028年10月1日

本改正の施行日は2028年10月1日と定められており、その日以降に開始する雇用契約や労働時間の変更に対して新基準が適用されます。
既存の雇用関係についても遡及適用の取り扱いや移行期間が通知される可能性があるため、就業規則や賃金台帳、勤怠管理システムの設定を早めに確認しておく必要があります。
企業は施行日を起点に業務フローを見直し、新たに加入が必要となる労働者への対応計画を立てることが求められます。

改正の目的

改正の目的は、働き方の多様化に対応して短時間労働者の雇用と生活の安定を図ることにあります。
非正規雇用の増加や複数就業の広がりを踏まえ、失業時や育児・介護等で所得が減少した場合のセーフティネットを確保する狙いがあります。
加えて、教育訓練給付など再就職支援の対象を広げることで、労働市場全体の流動性やスキル向上を促す政策的な狙いもあるため、労使双方にとって重要な改正となります。

2028年改正で何が変わるのか

週20時間以上から週10時間以上へ変更

最大の変更点は、雇用保険の加入基準となる所定労働時間が「週20時間以上」から「週10時間以上」に引き下げられることです。
これにより、従来は対象外だった短時間のパートやアルバイト、扶養の範囲内で働く人などが一気に加入対象となる可能性があります。
企業側は勤務時間が短くても雇用見込み日数の要件と合わせて新たな被保険者判定を行う体制が必要になります。

加入対象者が拡大する

週10時間以上への引き下げによって、特に複数勤務をしている労働者や、週に数日だけ勤務する人、学業や育児と両立する短時間労働者が加入対象に含まれるようになります。
これは被保険者数の増加を意味し、企業ごとの加入管理の手間や保険料負担額が増える可能性が高いです。
加入対象者の増加に伴い、社会保険の窓口対応や従業員への説明責任も重くなります。

短時間労働者への影響

短時間労働者にとっては、失業等給付の対象拡大により万が一の際の生活保障が強化されます。
育児休業給付や教育訓練給付の利用要件も見直されるため、職業能力の向上や再就職支援を受けやすくなるメリットがあります。
一方で、実務上は雇用保険料の控除や被保険者資格の管理、給付申請時の書類準備などの手間が増える点も事前に理解しておく必要があります。

比較項目現行(〜2028年9月)改正後(2028年10月〜)
週所定労働時間20時間以上10時間以上
加入対象の範囲主にフルタイム、長時間パート短時間パート、複数勤務者を含む広範な労働者
企業側の影響管理対象が限定的被保険者数増加で事務負担・保険料負担増

雇用保険の加入条件

31日以上の雇用見込み

雇用保険の加入要件の一つに「雇用見込みが31日以上であること」があり、これは短期の臨時雇用や短期間の契約社員を除外する基準となっています。
2028年改正後もこの日数要件は重要で、週10時間以上の労働時間要件と組み合わせて被保険者判定が行われます。
企業は採用時や契約更新時に雇用期間の見込みを明確に記載し、短期雇用の判別や加入手続きを正確に行うことが求められます。

週所定労働時間の要件

改正後は週所定労働時間が10時間以上であれば雇用保険の加入対象となるため、シフト制や変形労働時間制を導入している企業では各従業員の週ごとの労働時間集計が重要になります。
例えば、複数の勤務先で合算して週10時間を超える場合の取り扱い等、個別事案に応じた判断が必要です。
勤怠システムでの時間集計や雇用契約書の記述を見直して、判定基準に沿った管理を行うことが必要です。

加入対象外となるケース

雇用保険には例外的に加入対象外となるケースがあり、短期の臨時雇用や日雇い労働、労使協定による特定の労働形態などが該当する場合があります。
改正後は短時間労働者が新たに対象になる一方で、31日未満の契約や日雇いに該当するケースは引き続き対象外となるため、個々の雇用契約の実態を正確に把握することが重要です。
誤判定による加入漏れや不要な加入を避けるために、事前に社内でルールを整備してください。

企業への影響

加入対象者が増える

週10時間以上への適用拡大により、企業ではこれまで雇用保険の対象外だったパートや短時間労働者が多数加入対象となるため、被保険者台帳の更新や新たな書類作成が必要になります。
特に小売業や飲食業、サービス業など短時間勤務の従業員が多い業態では影響が大きく、従業員名簿や雇用契約ごとに加入判定を行う負担が増加します。
早めに人員やシステムの準備を進めることが企業の負担軽減につながります。

保険料負担が増加する

被保険者が増えることで企業が負担する雇用保険料も増加する可能性があります。
雇用保険は労使折半での負担となるケースが一般的であり、対象者の増加は会社負担分の増加を意味します。
中小企業では負担増が利益率に影響を与えることも想定されるため、予算計画の見直しや人件費管理の再検討が必要です。
また、従業員個々の給与天引き額の調整や給与明細の表示方法も整備する必要があります。

事務手続きが増える

被保険者数の増加に伴い、雇用保険に関する事務手続きが増加します。
具体的には被保険者資格取得・喪失の届出、保険料の算定、離職票の発行、給付申請時の書類確認など業務が増えるため、労務担当者の負担が大きくなります。
これに対応するためには勤怠・給与システムのアップデート、労務フローの見直し、外部社労士との連携強化などを検討することが現実的な対策となります。

人事担当者が準備すべきこと

対象者を洗い出す

まずは労働者全員の雇用形態と週所定労働時間、雇用見込み期間を精査して、週10時間以上かつ31日以上の雇用見込みがある者をリストアップすることが必要です。
シフト制や変形労働制、複数勤務先の事情で判定が難しいケースがあるため、勤務実績のデータや雇用契約書、出勤簿を突合して正確に把握してください。
現場での聞き取りや労働者本人への確認も重要で、早期に対象者を明確にすることで加入漏れや過剰加入を防げます。

  • 雇用契約書・雇用期間の確認
  • 週ごとの所定労働時間の集計
  • 複数雇用の場合の合算判定
  • 対象者リストの作成と更新ルールの設定

労働条件を確認する

次に、労働条件通知書や就業規則に記載された労働時間、休暇、賃金の取扱いを確認し、雇用保険加入判定に必要な情報が明確に記載されているかをチェックします。
特にシフトパターンや週毎の労働時間が変動する場合は平均算出方法や集計期間を定めることが必要です。
不足があれば雇用契約書の書式を改定し、労働者に説明したうえで同意を得る手続きを整えてください。

確認項目チェック内容
所定労働時間週ごと・月ごとの集計方法と記録の有無
雇用期間契約開始日・終了日・更新の有無と見込み
複数雇用本人申告の有無と他社勤務の把握方法

社内ルールを見直す

雇用保険適用拡大に伴い、被保険者判定のルールや届出フロー、担当者の責任範囲を就業規則や社内規程に明確化する必要があります。
例えば、採用時のチェックリストに雇用保険加入判定項目を追加し、勤怠管理と給与計算の連携手順を定めることが重要です。
また、社内周知用のテンプレートやFAQを整備して担当者間で共通理解を持てるようにしてください。

  • 採用フローへの加入判定項目追加
  • 被保険者台帳管理ルールの策定
  • 届出担当者と承認フローの明確化
  • 社内説明資料・FAQの作成

就業規則・雇用契約書の見直し

労働時間を確認する

就業規則や雇用契約書に記載する所定労働時間は、雇用保険の判定に直結する重要な要素です。
シフト制や変形労働時間制を採用している場合は、週ごとの所定時間の計算方法と記録方法を明示しておかないと判定ミスが生じます。
就業規則の記載が曖昧な場合は、具体的な集計ルールや例示を追加して労働者に理解しやすく示すことが求められます。

契約更新時の運用を見直す

契約更新や短期契約の取り扱いについては、31日以上の雇用見込みの判定や更新時の告知義務、加入手続きに関する運用ルールを整備してください。
更新時には雇用期間だけでなく、今後の予定勤務時間も確認して加入要件に該当するかを判断するフローをつくることが重要です。
契約更新のタイミングで被保険者資格取得届の提出が必要かどうかをチェックリスト化しておくと実務が楽になります。

説明資料を準備する

従業員向けに雇用保険の適用拡大内容や影響、保険料の控除方法、給付の概要をまとめた説明資料を作成して配布してください。
特に短時間労働者は制度への理解が浅い場合があるため、給付を受けられる要件や申請手続きの流れ、会社が行う手続きと従業員の役割を分かりやすく示すことが重要です。
説明会を実施して質疑応答の時間を設けることで誤解や不安を減らせます。

  • 雇用保険制度の概要(短時間労働者向け)
  • 保険料の負担割合と天引き金額の例示
  • 給付の種類と申請窓口の案内
  • よくある質問と回答集

従業員への影響

失業等給付を受けられる可能性が広がる

週10時間以上の適用拡大により、失業した場合に基本手当(失業手当)を受けられる人が増加します。
短時間勤務であっても一定の被保険者期間を満たせば給付対象となるため、生活保障の観点でのセーフティネットが強化されます。
ただし受給要件や給付日数は従来と異なる場合があるため、従業員には自身の受給見込みや手続き方法を具体的に説明することが重要です。

育児休業給付の対象が広がる

育児休業給付についても対象が広がるケースが想定され、短時間しか働いていない労働者でも条件を満たせば育児休業中の所得補償を受けられるようになります。
これは育児と仕事の両立支援という観点で非常に大きな意味を持ち、離職防止や職場定着につながる可能性があります。
企業は育児休業に関する情報提供を充実させ、申請手続きの支援を行う準備が必要です。

教育訓練給付を利用しやすくなる

教育訓練給付の利用対象も広がるため、短時間労働者がスキルアップや資格取得を通じてキャリア形成を図りやすくなります。
これに伴い従業員の能力向上が期待できる反面、社内での研修やキャリアパス設計を見直す必要があります。
従業員に対して利用方法や助成の具体例を示すことで、利用促進と定着支援を両立させることが可能です。

改正に伴う実務上の注意点

複数勤務者への対応

複数の事業所や他社で働く人の場合、各勤務先での所定労働時間の合算により雇用保険の加入要件を満たすケースが出てきます。
この場合、各事業所が個別に加入手続きを取る必要がある一方で、労働者側の申告や情報共有が不十分だと対応が遅れる恐れがあります。
会社は採用時に副業・兼業の有無を確認し、必要に応じて労働者から情報提供を受ける仕組みを作ってください。

勤怠管理を徹底する

週10時間の基準が導入されると、微細な勤務時間の差が保険適用に影響するため、勤怠管理の精度がこれまで以上に重要になります。
タイムカード、クラウド勤怠、シフト表などの記録を適切に保存し、集計ルールを明確にすることで誤判定を防げます。
特に時間外や有給の扱い、遅刻早退の集計方法を統一し、定期的に監査する体制を整えてください。

加入漏れを防ぐ

加入漏れが発生すると、過去分の保険料徴収や行政からの指導・罰則の対象になる可能性があるため、リスク管理が重要です。
被保険者管理台帳の定期チェックや採用・契約更新時のダブルチェック、外部社労士との定期的なレビューにより加入漏れを最小化してください。
問題が見つかった場合は速やかに是正措置を取り、従業員への説明と必要な手続きを速やかに行うことが求められます。

よくある質問

現在の従業員も対象になるのか

原則として施行日である2028年10月1日以降の状況に基づいて適用判定が行われますが、既存従業員についても雇用契約や勤務実績によっては新基準で被保険者となる場合があります。
会社は現行の従業員リストを精査し、当該日時点で週10時間以上かつ31日以上の雇用見込みがある者を把握して、必要な手続きを行ってください。
具体的な遡及扱いや移行措置については労働局や社労士に確認することを推奨します。

パート・アルバイトも加入するのか

はい、週10時間以上かつ31日以上の雇用見込みがあるパートやアルバイトも原則として加入対象になります。
ただし、日雇いや短期の臨時雇用など例外的に加入対象外となるケースもあるため、個々の契約形態を確認することが重要です。
従業員へは加入の基準や保険料の天引きについて丁寧に説明し、納得を得たうえで手続きを進めてください。

企業規模による違いはあるのか

雇用保険の加入基準自体は企業規模で異なるものではありませんが、事務対応や保険料負担の影響は企業規模によって差が出ます。
特に中小・小規模事業者では管理リソースが限られるため、外部社労士の活用やクラウドサービス導入で効率化を図ることが実務的な対策となります。
大企業では対象者数の増加に伴うシステム改修や部門間調整が課題になることが多いです。

社労士が企業へ提案できること

加入対象者を診断する

社労士は雇用契約や勤怠データをもとに、どの従業員が新たに被保険者になるかを診断し、リスクと対応策を提示できます。
具体的には対象者リストの作成、過去の勤務実績に基づく判定、遡及加入の要否の確認などを行い、企業が取るべき手順を明確に示すことが可能です。
外部の専門家による診断は内部リソースを節約し、法令遵守の観点からも有益です。

就業規則を見直す

社労士は就業規則や雇用契約書の文言を改正案として作成し、法令に沿った形で雇用保険対応を組み込む支援ができます。
シフト制や短時間労働者の取り扱い、加入・届出フロー、情報提供の方法などを実務に即した形で整備し、労使紛争を防ぐための条項整理も行えます。
必要に応じて労働基準監督署や労働局との調整や届出書類の作成支援も提供可能です。

担当者研修を実施する

社労士は人事・勤怠・給与担当者向けの研修を実施して、新基準の判定方法や届出手続き、勤怠集計のポイントなど実務に直結するノウハウを伝授できます。
研修ではケーススタディやチェックリストの提供、よくある誤りとその対処法を盛り込むことで、実務でのミスを減らし対応速度を高める効果が期待できます。
定期的なフォローアップや相談窓口の設定も併せて提案できます。

まとめ

適用拡大に向けて今から対応を進めよう

2028年10月1日施行の雇用保険改正は、週10時間以上への適用拡大により多くの短時間労働者が新たに保護対象となる点で企業にとって重要な変化です。
影響は被保険者の増加、保険料負担の増大、事務手続きの煩雑化など多岐にわたるため、早期に対象者の洗い出し、勤怠・給与システムの整備、就業規則の見直しと従業員説明を進めることが不可欠です。
社労士や外部専門家と連携しながら計画的に準備を進めることで、スムーズな移行とリスクの最小化が図れます。

この記事を書いた人

岩本浩一社会保険労務士・採用定着士
岩本 浩一(いわもと こういち)
社会保険労務士法人あいパートナーズ 代表社員

採用と定着に特化した人事労務のスペシャリスト。愛媛県社会保険労務士会所属(登録番号:3806011)。愛媛県松山市を拠点に、地元企業のみならず全国の企業の組織成長を支援している。「人手不足を解消し、持続可能な組織をつくる」ことをミッションに掲げ、理論と現場のリアリティを融合させたコンサルティングを展開。

特に「企業型確定拠出年金(企業型DC)」を活用した退職金制度の構築に定評がある。従業員の将来設計を支える福利厚生の整備と、経営側のコスト効率化を両立させる専門的なスキームにより、採用力の強化と離職率の低下を同時に実現。数多くの中小企業における組織課題を解決へ導いてきた。

地域経済への貢献にも注力しており、地元メディア『愛媛経済レポート』にて採用定着をテーマとした連載を長期にわたり担当。また、AI技術を活用した情報発信のパイオニアとしても活動しており、YouTubeチャンネル『あいパートナーズ AI労働解説』やPodcast『博識な猫タマとクロの資料解説』を通じて、労働法や人事トレンドの最新情報を、経営者や人事担当者に向けて分かりやすく解説している。