試用期間中でも最低賃金は絶対厳守 減額が許される範囲と違法になるケースを解説

この記事は、企業の人事担当者や新しく働き始める労働者、そして試用期間中の賃金に不安を持つ人に向けて書かれています。 試用期間中に最低賃金がどう適用されるのか、減額が違法になるケースやトラブル回避の実務的なポイントを法令や判例の考え方を踏まえて分かりやすく解説します。

Table of Contents

試用期間中でも最低賃金は適用されるのか

結論として最低賃金は必ず守る必要がある

結論として、試用期間中であっても最低賃金は労働基準法や最低賃金法に基づき適用され、事業者はその水準を下回る賃金を支払うことは許されません。 試用期間という名目で最低賃金を切り下げることは原則として認められず、適切な賃金の支払いが義務づけられています。

試用期間だから例外になることはない

試用期間は労働契約が継続している期間であり、労働者の地位や労働時間が存在する以上、最低賃金法の適用対象から除外されるわけではありません。 企業は試用期間であっても雇用条件を明確にし、最低賃金を下回らないように賃金設定を行う必要があります。

そもそも試用期間とは何か

本採用前の適性を見極める期間

試用期間とは、使用者が採用した労働者の業務適性や勤務態度を確認するための一定期間を指し、一般に数か月程度で設定されることが多いです。 この期間は評価のための期間であり、労働契約自体が存在するため権利義務は原則として発生します。

雇用関係はすでに成立している

入社日から試用期間が始まる場合、雇用関係は既に成立しているため労働時間、賃金、社会保険などのルールが適用されます。 したがって試用期間だからといって労働者の基本的な法的保護が消えるわけではありません。

最低賃金制度の基本ルール

雇用形態に関係なく適用される

最低賃金は正社員、契約社員、パート、アルバイトなど雇用形態を問わず適用され、労働時間に応じて支払われるべき最低限の賃金水準を定めた制度です。 短時間労働者や試用期間中の労働者であっても、支払われる賃金が最低賃金以上であることが必要です。

下回る賃金は原則違法

事業者が最低賃金を下回る賃金を支払った場合、その部分は違法となり、労働基準監督署からの是正指導や未払賃金の支払い請求などの対象になります。 労働者は不足分の支払いを請求でき、事業者側には行政処分や民事的責任が及ぶ可能性があります。

試用期間中に賃金を下げてもよいのか

最低賃金を下回らなければ可能

試用期間中に本採用後より低い賃金を設定すること自体は可能ですが、その水準が法定の最低賃金を下回らないことが前提となります。 差額の扱いや評価基準、期間については就業規則や雇用契約書で明確に規定しておくことが望ましいです。

最低賃金未満は認められない

どのような理由があっても最低賃金を下回る支払いは原則として認められておらず、試用期間を理由に賃金をカットして最低賃金未満にすることは違法です。 違法な支払いがあった場合には、事業者は不足分を支払い、行政指導や罰則を受ける可能性があります。

よくある誤解

試用期間=アルバイト扱いではない

「試用期間だからアルバイト扱いにしても問題ない」という誤解がありますが、役職や雇用形態の切替えが適法でなければ違法になることがあります。 実際の労働契約の内容と業務実態が重要で、名目より実態が優先されます。

能力不足を理由に最低賃金は下げられない

評価や能力不足を理由に賃金を引き下げる際にも最低賃金を下回らないことが必要であり、事前説明や客観的評価基準がない一方的な減額は争いの原因になります。 労務管理は公正な手続きと透明性が求められます。

試用期間中の減額が問題になるケース

最低賃金を下回っている

試用期間中の賃金が最低賃金を下回っているケースは最も典型的な問題であり、発覚すれば事業者に不足分の支払い義務が生じます。 労働者は未払賃金の請求のほか労働基準監督署への通報や労働審判の申し立ても行えます。

事前説明がなく一方的に下げている

雇用契約や就業規則で試用期間中の賃金について明確な合意がないにもかかわらず、一方的に賃金を下げる行為は無効とされる場合が多く、労働者との信頼関係を損ないます。 事前説明と書面での合意がトラブル防止に重要です。

最低賃金を下回るとどうなるか

不足分の支払い義務が発生する

最低賃金を下回って支払われていた場合、事業者は当該不足分を遡って支払う義務が生じることがあり、労働者は未払賃金の支払いを請求できます。 支払い命令や和解の事例も多く、金銭負担が経営にとって大きな問題となる可能性があります。

是正勧告や指導の対象になる

労働基準監督署により是正勧告や改善指導が行われると、行政の監督下に置かれ企業イメージや信用に悪影響が出るだけでなく、悪質な場合には罰則が科されることもあります。 速やかな対応と再発防止策が求められます。

就業規則や雇用契約書の重要性

試用期間中の賃金を明記する

試用期間中の賃金、評価基準、期間延長や本採用の条件などを就業規則や雇用契約書に明確に記載しておくことは、後のトラブル防止に非常に有効です。 書面での明示は労働者の理解促進にもつながります。

後からのトラブルを防げる

賃金条件を明確に示しておくことで、評価結果に基づく賃金差の説明責任が果たしやすくなり、労働者と使用者の双方にとって紛争を避ける土台ができます。 変更時には合意形成の手続きを踏むことが重要です。

試用期間中に評価給を下げる場合

合理的な理由が必要

評価給や手当を見直す場合には、業務実態や評価プロセスに基づく合理的な理由と客観的な評価基準が必要であり、恣意的な減額は争いの元になります。 評価制度自体を事前に整備し、説明可能な運用を行うことが求められます。

最低賃金を下回らないことが前提

評価給を下げる場合でも、どのような算定を行ったとしても最低賃金を下回らないことが大前提であり、これを守らない限り法的リスクは消えません。 給与体系の変更は労使協議や就業規則の改定を伴うべきです。

地域別最低賃金と業種別最低賃金

適用される最低賃金を確認する

最低賃金には地域別最低賃金と、業種によって設定される場合の業種別最低賃金があり、事業所がどの賃金を適用すべきかを正しく確認する必要があります。 適用誤認は違法支払いや未払の原因となるため、常に最新の情報を確認してください。

より高い方が優先される

地域別と業種別の両方が存在する場合は、労働者にとって有利な、より高い方の最低賃金が優先して適用されますので、企業は高い方を基準に賃金設計を行う必要があります。 誤った適用は行政指導の対象になります。

種類適用範囲備考
地域別最低賃金都道府県単位で適用事業所所在地や労働実態で判断
業種別最低賃金特定業種に適用存在する場合は地域別と比較し高い方を適用

中小企業で起きやすい失敗例

試用期間中だから大丈夫と思っている

中小企業では「試用期間だから最低賃金は緩いだろう」と誤認しがちで、その結果法令違反に至るケースがしばしば見られます。 特に複雑な手当や時間外労働の計算を怠ると実効賃金が最低賃金を下回るリスクが高まります。

最低賃金の改定を反映していない

最低賃金は毎年改定されることがあり、中小企業がこれを給与体系に反映していないと知らずに未払が発生することがある点にも注意が必要です。 定期的なチェックと給与計算の見直しが不可欠です。

  • 試用期間の賃金を就業規則に明記していない
  • 最低賃金改定を給与システムに反映していない
  • 手当の計算方法で誤りがある

最低賃金の減額特例はあるのか

原則として特例はほぼない

最低賃金には原則として広い例外はなく、事業者側の事情で一律に下げるための簡単な特例はほとんど存在しません。 特別な制度や職種別の扱いがある場合は行政に確認する必要があります。

簡単に適用できる制度ではない

仮に減額特例を適用したい場合でも、法律や労使協定、行政の承認が必要となるケースがあり、簡単に適用できるものではないため慎重に対応すべきです。 専門家の相談を受けることを推奨します。

試用期間と本採用後の賃金差

差を設けること自体は可能

試用期間中に本採用後より低い賃金を設定することは可能ですが、その差には合理性が求められ、事前に説明され合意されていることが重要です。 差額の根拠や評価基準が不明瞭だと紛争に発展する可能性があります。

合理性と事前説明が重要

賃金差を設ける場合、業務習熟度や研修期間であることを説明し、合理的な基準に基づいて運用することが必要です。 書面での合意や就業規則での明記はトラブル防止に効果的です。

トラブルを防ぐための企業側の対応

採用時に賃金条件を明確に説明する

採用時に試用期間中の賃金や評価基準、本採用後の賃金の変動条件を明確に説明し、書面で確認を取ることはトラブル防止の基本です。 労働者が納得できる形で条件を提示し、合意を得るプロセスが重要になります。

最低賃金を常に確認する

地域別・業種別の最低賃金の改定情報を定期的にチェックし、給与計算システムや就業規則に反映させることで未払発生リスクを低減できます。 社内ルールの整備と従業員への周知も欠かせません。

  • 採用時に賃金条件を書面化する
  • 就業規則を定期的に見直す
  • 最低賃金改定を給与計算に反映する

まとめ|試用期間中でも最低賃金は必ず必要

試用期間は免罪符ではない

試用期間は企業が労働者を見極めるための期間に過ぎず、最低賃金を守る義務や労働者の基本的な権利は消えません。 試用期間を理由に最低賃金を下回る運用をすることは法的リスクを伴うため避けるべきです。

正しい理解が労務トラブルを防ぐ

企業側は制度の正しい理解と書面整備、労働者への説明を徹底することでトラブルを未然に防げます。 労働者側も自身の権利を理解し、不当な扱いを受けた場合には相談や行政への申告を検討することが重要です。

動画で解説

この記事を書いた人

岩本浩一社会保険労務士・採用定着士
岩本 浩一(いわもと こういち)
社会保険労務士法人あいパートナーズ 代表社員

採用と定着に特化した人事労務のスペシャリスト。愛媛県社会保険労務士会所属(登録番号:3806011)。愛媛県松山市を拠点に、地元企業のみならず全国の企業の組織成長を支援している。「人手不足を解消し、持続可能な組織をつくる」ことをミッションに掲げ、理論と現場のリアリティを融合させたコンサルティングを展開。

特に「企業型確定拠出年金(企業型DC)」を活用した退職金制度の構築に定評がある。従業員の将来設計を支える福利厚生の整備と、経営側のコスト効率化を両立させる専門的なスキームにより、採用力の強化と離職率の低下を同時に実現。数多くの中小企業における組織課題を解決へ導いてきた。

地域経済への貢献にも注力しており、地元メディア『愛媛経済レポート』にて採用定着をテーマとした連載を長期にわたり担当。また、AI技術を活用した情報発信のパイオニアとしても活動しており、YouTubeチャンネル『あいパートナーズ AI労働解説』やPodcast『博識な猫タマとクロの資料解説』を通じて、労働法や人事トレンドの最新情報を、経営者や人事担当者に向けて分かりやすく解説している。