この記事は経営者や人事担当者を主な読者想定として作成しています。 協調性がないとされる社員をどのように評価し、解雇や処分を検討すべきかという現場での判断基準と実務対応をわかりやすく整理しています。 法的な考え方と実務上の手順、記録や就業規則の整備まで具体的に解説することで、リスクを抑えた対応を支援します。
協調性がない社員は解雇できるのか
協調性がないという評価だけで直ちに解雇が認められるわけではありません。 労働法や裁判例では、解雇が有効とされるには具体的で客観的な業務への支障や重大な規律違反が必要とされるため、単なる性格や相性の問題は解雇理由になりにくいとされています。 ここではどのような条件が満たされれば解雇が検討可能かを整理します。
単に性格の問題では解雇は難しい
職場での摩擦や人間関係の悪化があっても、それが性格上の不一致にとどまる場合は解雇が認められないのが一般的です。 裁判所は性格の不一致や性格的特徴だけを理由に労働契約を解除することには慎重で、具体的な業務上の支障や重大性を重視します。 したがって解雇を検討する際には、ただの相性問題と業務への影響を明確に区別する必要があります。
客観的な業務支障が必要
解雇が正当化されるためには、具体的な事実に基づく業務遂行上の支障があり、それが企業活動に重大な影響を及ぼしていることを示す必要があります。 たとえば業務指示に従わない、同僚への暴言やハラスメントで業務が回らなくなる、継続的に業績が著しく低下するなどの客観的事実が求められます。 証拠や記録を残しておくことが極めて重要です。
解雇が認められる基本条件
解雇が有効と判断されるための基本的な法理として、客観的合理性と社会通念上の相当性という二つの要件が挙げられます。 これらは裁判での判断基準にもなっており、企業は解雇に際してこれらの要件を満たすか慎重に検討し、証拠を整えておく必要があります。 以下でそれぞれの意味と実務上のポイントを解説します。
客観的合理性
客観的合理性とは、解雇理由が具体的かつ客観的に正当化できることを意味します。 単なる主観的な不満や感情的判断ではなく、記録や証言、業務データなどで裏付けられる事実に基づく必要があります。 例えば業務指示の著しい不履行や職場秩序の重大な侵害があれば客観的合理性が認められる場合があります。
社会通念上の相当性
社会通念上の相当性は、解雇が一般的な社会的常識に照らして過度ではないかを問う要件です。 形式的に理由があっても、改善の余地や軽易な措置で対応可能であれば解雇は過重とされることがあります。 企業は処分の程度や代替措置の検討、被害の程度などを総合的に判断する必要があります。
| 要件 | 内容 | 実務上のポイント |
|---|---|---|
| 客観的合理性 | 具体的事実に基づく業務上の不履行や秩序違反 | 記録、業務データ、証言などで裏付けることが必要 |
| 社会通念上の相当性 | 解雇が社会的に見て過度でないか | 配置転換や改善指導など他の手段の検討履歴を残すこと |
協調性とは何を指すのか
協調性は職場において他者と協力し、共同で目標を達成する際の態度や行動を指します。 具体的には相手の意見を聞く、役割を尊重する、対立を建設的に解決するなどの行動様式が含まれます。 単に和やかに振る舞うだけでなく、組織目標に沿って他者と連携できる能力という実務的側面を重視して考えることが重要です。
チームワークへの参加
チームワークへの参加は、役割や責任を果たしつつ他者と協働する姿勢を意味します。 会議での発言、作業分担の遂行、問題発生時の連携などが含まれ、これらが欠けるとプロジェクト全体に遅延や品質低下が生じる可能性があります。 評価の際には具体的な行動例や影響を確認することが大切です。
業務上のコミュニケーション
業務上のコミュニケーションは単なる雑談ではなく、情報共有や意思疎通、報告連絡相談の適切さを指します。 必要な情報を適時に共有しない、指示を無視する、意図的に連絡を断つといった行為は協調性の欠如が業務に与える悪影響の典型です。 これらの事実は記録で示せるようにする必要があります。
性格と解雇の違い
一般に『性格』は個人の内面的傾向を示すものであり、それ自体が直ちに解雇理由にはなりません。 対して解雇が問題となるのは、その性格が具体的な業務妨害や職場秩序の破壊に結び付いた場合です。 したがって評価や対応では『性格そのもの』と『業務への具体的影響』を明確に区別することが欠かせません。
単なる性格は理由になりにくい
たとえば内向的で他者と馴染みにくい性格や、自己主張が強い性格などは多くの職場に存在しますが、それだけで解雇を正当化することは難しいです。 裁判例も性格の不一致だけでは解雇が無効と判断されるケースが多いことを示しています。 経営側は性格を理由に処分を行う際の慎重さが求められます。
業務への影響が重要
解雇の妥当性を判断する際には、当該社員の行為が業務の遂行や同僚の働き方にどの程度の支障を与えているかが決定的です。 例えば継続的な欠勤や業務指示の重大な不履行、職場の機能不全に直結する対人トラブルなどは業務影響の直接的な例であり、こうした事実が示されなければ解雇は困難です。
問題になるケース
協調性の欠如が問題となる典型的なケースには、職場秩序を乱す行為や業務指示への明確な非協力が含まれます。 これらは単発のトラブルなのか継続的な傾向なのか、またその行為がどの程度業務に影響しているかを慎重に評価する必要があります。 以下で具体的事例を挙げて説明します。
職場秩序を乱す行為
職場秩序を乱す行為には、暴言や嫌がらせ、ハラスメント、故意の情報隠匿などが含まれます。 こうした行為は被害者が生じるだけでなくチームの士気低下や離職を招き、組織運営に重大な悪影響を及ぼします。 発生した場合は速やかに事実関係を調査し、被害者保護と再発防止を優先して対処する必要があります。
業務指示への非協力
業務指示に従わない、指示を無視して独断で行動する、または業務連絡を故意に怠るといった行為は業務遂行に直接的な支障を与えます。 これらが単発ではなく反復的であり、改善指導を経ても改善が見られない場合には、より厳しい処分や解雇が検討されることがあります。
解雇が検討される場面
解雇が検討されるのは、改善の余地が乏しく、継続雇用が著しく困難と認められる場面です。 具体的には業務遂行が著しく阻害される場合、組織運営に重大な支障が生じる場合、または他の従業員の安全や労働環境が深刻に損なわれる場合などが考えられます。 判断には慎重な事実認定が必要です。
業務遂行が困難
当該社員の行為や態度によって、担当業務が遂行できない、取引先との信頼が損なわれる、プロジェクトが停滞するなど具体的結果が生じている場合は、解雇が検討され得ます。 ただしその前提として改善指導や配置転換などの代替措置を尽くしたかが重要な判断材料になります。
組織運営に重大な支障
組織運営に重大な支障が生じるとは、チーム全体の生産性低下、離職の連鎖、重大な労務問題の発生といった形で企業活動に深刻な影響が及ぶことを指します。 この場合、企業は被害の拡大を防ぐため速やかな措置が求められますが、解雇に踏み切る際には十分な手続きと証拠保全が必要です。
裁判で判断されるポイント
解雇の有効性は最終的に裁判で争われることがあり、裁判所は具体的事実と手続きの適正性を精査します。 重要な判断ポイントは問題行動の具体性、業務への影響の程度、会社側が講じた改善措置や指導の有無と内容、就業規則や懲戒ルールの適用の妥当性などです。 企業はこれらを踏まえた準備が必要です。
具体的な問題行動
裁判所は『いつ、どこで、誰に対して、どのような行為があったか』という具体的事実を重視します。 抽象的な評価や感覚的な判断だけでは不十分で、メールや報告書、出勤記録、証人の供述などの客観的証拠が重要になります。 具体性が欠ける場合、解雇は無効とされるリスクが高まります。
業務への影響
裁判では当該行為が業務にどの程度の影響を与えたかが厳密に検討されます。 単なる不快感の発生にとどまるのか、具体的な業務停止や損害が生じたのかを区別し、被害の範囲や反復性なども考慮されます。 影響が限定的で改善の余地があれば解雇は認められにくい傾向があります。
会社の指導義務
会社には従業員に対して適切な指導を行う義務があり、それを尽くさずにいきなり解雇に踏み切ると法的に問題となる可能性があります。 指導は具体的で時系列に沿ったものであることが求められ、改善の機会を与えたかどうかが重要な判断材料となります。 記録を残すことは指導義務を果たした証拠になります。
改善指導の実施
改善指導は、具体的な行為に対して期待される行動や目標、期限を明示し、フォローアップを行うことが基本です。 口頭注意だけで終わらせず、面談や文書での指示、改善計画の作成と評価を行い、改善が見られない場合の次のステップを明確にしておくことが重要です。
面談や注意の記録
面談や注意の記録は、いつ何を指導したかを明確に示す重要な証拠です。 記録には日時、参加者、指摘した具体的事実、改善要求、期限、フォローの予定などを記載し、可能なら本人の了承署名や受領印を得ておくと後の紛争で有効になります。 電子メールや社内システムのログも活用できます。
配置転換の検討
解雇以外の対応として配置転換は有効な手段です。 問題行動が特定の業務や人間関係に起因する場合、他部署への異動や職務内容の変更で問題を解消できる可能性があります。 配置転換を検討することで解雇回避と人材活用の両立が図れますが、本人の能力や適性、就業規則や労働契約上の制約も確認する必要があります。
他部署への異動
他部署への異動は、対人関係の摩擦を避ける有効な方法ですが、異動先での職務内容や人間関係、本人の適性を事前に検討することが重要です。 無理な配置は新たな摩擦を生む可能性があるため、異動は本人の同意や業務上の合理性を踏まえて行うべきです。 異動提案の記録も残しておきましょう。
職務内容の変更
業務内容の変更は、対人折衝が少ない業務への配置転換や作業中心の職務への変更など多様な選択肢があります。 変更に伴う研修や支援を用意することで成功率が高まりますが、重要なのは変更が就業規則や雇用契約に照らして許容されるかを確認することです。 手続きや合意の記録も必要です。
段階的な対応
問題が発生した場合は段階的に対応することが望ましく、軽度の注意から始めて改善が見られない場合に段階を上げて懲戒処分や最終的には解雇を検討する流れが一般的です。 段階を踏むことで過度な処分を避け、裁判での正当性を担保しやすくなります。 各段階での記録を残しておくことが必須です。
注意指導
最初の段階では口頭注意や個別面談で問題点を伝え、期待される行動と改善期限を明確にします。 必要に応じて文書での注意や業務改善計画を用意し、フォローアップの面談を定期的に行うことが重要です。 この段階で記録を残すことで後続の処分が正当化しやすくなります。
懲戒処分
注意指導で改善が見られない場合は懲戒処分を検討しますが、懲戒の種類と程度は就業規則に基づき適切に選定する必要があります。 減給、出勤停止、譴責などがありますが、処分が過大でないか、また手続きが公正に行われたかが後の争いで問題となります。 懲戒理由と根拠の記録は不可欠です。
記録の重要性
記録は解雇や懲戒を正当化するための最重要の証拠となります。 問題行動の具体的事実、日時、関係者、指導の経緯、本人の応答などを時系列で保存しておくことで、法的争いが発生した際にも会社の主張を裏付けることができます。 記録は客観的で一貫性があることが求められます。
問題行動の記録
問題行動は発生した都度、可能な範囲で詳細に記録します。 メールやチャットのログ、出勤簿、業務報告、目撃者のメモなど客観的資料を保存し、事実関係を複数のソースで裏付けると信頼性が高まります。 記録は改ざんされていないことを示すために保存方法にも配慮してください。
指導履歴の保存
指導の履歴は改善の機会を与えた証拠として重要です。 面談記録、改善指示書、期限設定とその評価、本人の反応や回答を残すことで、会社が合理的な手続きを尽くしたことを示せます。 電子で保存する場合も改ざん防止やアクセス履歴の管理を行うことが望ましいです。
就業規則の整備
就業規則は服務規律や懲戒の基準を明確にし、従業員に周知することで適正な労務管理の基盤となります。 協調性の欠如が問題行動となる場合、どのような行為が違反となるか、どのような手続きを踏むかを規則に明記しておくことが紛争予防に有効です。 規則の運用は一貫性が重要です。
服務規律の明確化
服務規律には職場で許容される行為と禁止される行為を具体的に記載することが望ましいです。 例えばハラスメント、暴言、業務命令の不服従などを例示し、違反時の措置の流れを明示しておくと実務上の判断がしやすくなります。 従業員への周知と適用の公平性が重要です。
懲戒規定
懲戒規定は処分の種類と適用基準を明確にし、恣意的運用を防ぐことを目的とします。 減給、出勤停止、懲戒解雇などの基準を具体的に定め、懲戒手続きの流れや弁明の機会を規定しておくことで、適正な運用と法的安定性が確保されます。 定期的な見直しも重要です。
よくある企業の失敗
企業側がよく犯す失敗には、感覚的な判断で厳しい処分に踏み切ることや、記録を十分に残さないことが含まれます。 これらは後の訴訟や労働紛争で企業側の主張を弱め、損失につながるリスクが高いです。 実務では慎重な事実把握と手続きの適正化が求められます。
感覚的判断
上司の主観や印象だけで処分を決めると、後に不当解雇や不当処分と争われるリスクが高まります。 感覚的判断を避け、事実関係を客観的に整理し、複数の証拠や関係者の証言で裏付けることが重要です。 可能な限り手続きを形式化しておくことがリスク軽減につながります。
記録不足
記録が不十分だと会社の主張が裁判で認められにくくなります。 注意指導や面談の詳細、問題行動の日時や内容、被害の程度などを継続的に記録する習慣をつけることが重要です。 記録は後の防御だけでなく、問題解決のための根拠にもなります。
実務での対応方法
実務対応では、初動対応、事実確認、改善指導、必要に応じた配置転換や懲戒、最終的な判断に至るまで一貫したプロセスが必要です。 各段階での記録と透明性、公平な手続きの確保が重要であり、外部専門家の助言を得ることも検討すべきです。 以下に具体的手順を示します。
段階的な指導
まずは事実確認を行い、問題の程度に応じて口頭注意、文書での指示、面談といった段階的な指導を行います。 改善計画や期限を設け、進捗を定期的に確認する仕組みを作ることで本人に改善の機会を与えます。 これらのプロセスはすべて記録に残すべきです。
- 事実確認と証拠収集を行う。
- 面談で問題点と期待行動を明示する。
- 改善計画と期限を設定しフォローする。
改善機会の提供
改善のための研修やメンター制度、業務分担の見直しなど、具体的な支援を提供することが重要です。 本人に改善の意志が認められる場合は一定の支援を行い、改善が見られない場合にのみ次の段階を検討します。 支援の内容と効果も記録しておくべきです。
- 研修やコーチングの提供。
- メンターや相談窓口の設置。
- 業務負荷の調整や役割再設計。
経営者が意識すべきこと
経営者は組織秩序の維持と法的リスクのバランスを常に意識する必要があります。 短期的な感情で解雇に踏み切るのではなく、長期的な組織の健全性、従業員の士気、法的リスクを総合的に勘案して判断することが重要です。 専門家の助言を活用することも検討してください。
組織秩序の維持
秩序維持のためには明確なルール、適正な評価制度、公平な運用が求められます。 問題行動が組織に悪影響を与える場合は迅速に対処する一方、過度な処分が組織文化に悪影響を与えないよう配慮する必要があります。 透明性のある運用が信頼につながります。
法的リスク管理
解雇や懲戒は法的リスクを伴うため、手続きの適法性と証拠の確保を徹底してください。 就業規則の整備や弁護士等の専門家への相談、労働基準監督署や労働相談窓口の活用も検討し、リスクを最小化するための体制を整えることが重要です。
まとめ|協調性だけで解雇は難しい
結論として、協調性がないというだけで直ちに解雇が認められるわけではなく、業務への具体的な影響や企業側の指導・対応の適正さが判断基準となります。 解雇を検討する際には事実の記録、改善機会の付与、就業規則に基づく適正手続きを踏むことが不可欠です。 以下に要点をまとめます。
業務への影響が判断基準
協調性が問題とされる場合でも、裁判所が重視するのは『業務への影響』です。 具体的かつ客観的な支障が示されなければ解雇は認められにくく、企業はどのような被害や支障が発生したかを明確にしておく必要があります。 記録と証拠の整備が最優先です。
適切な手続きと記録が重要
解雇や懲戒に至る前に段階的な指導、改善の機会提供、配置転換の検討など適切な手続きを尽くしたことを示せる形で記録を残すことが最も重要です。 就業規則の明確化と公正な運用により、法的リスクを低減しつつ組織秩序を維持することが可能になります。
動画で解説
この記事を書いた人
- 社会保険労務士・採用定着士
- 岩本 浩一(いわもと こういち)
社会保険労務士法人あいパートナーズ 代表社員
採用と定着に特化した人事労務のスペシャリスト。愛媛県社会保険労務士会所属(登録番号:3806011)。愛媛県松山市を拠点に、地元企業のみならず全国の企業の組織成長を支援している。「人手不足を解消し、持続可能な組織をつくる」ことをミッションに掲げ、理論と現場のリアリティを融合させたコンサルティングを展開。
特に「企業型確定拠出年金(企業型DC)」を活用した退職金制度の構築に定評がある。従業員の将来設計を支える福利厚生の整備と、経営側のコスト効率化を両立させる専門的なスキームにより、採用力の強化と離職率の低下を同時に実現。数多くの中小企業における組織課題を解決へ導いてきた。
地域経済への貢献にも注力しており、地元メディア『愛媛経済レポート』にて採用定着をテーマとした連載を長期にわたり担当。また、AI技術を活用した情報発信のパイオニアとしても活動しており、YouTubeチャンネル『あいパートナーズ AI労働解説』やPodcast『博識な猫タマとクロの資料解説』を通じて、労働法や人事トレンドの最新情報を、経営者や人事担当者に向けて分かりやすく解説している。
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