この記事は、会社の経営者・人事担当者・管理職の方、そして自分の給与が下がる可能性に不安を感じている労働者の方に向けて、基本給の減給がどのような場合に認められるのかをわかりやすく解説する記事です。 基本給は給与の土台であり、手当や賞与、退職金の計算にも影響しやすいため、安易な引き下げは大きなトラブルにつながります。 本記事では、基本給の意味から、減額に関する法律上の考え方、認められるケース、違法になりやすい場面、企業が実務で注意すべきポイントまでを整理して紹介します。
基本給の減給はできるのか
基本給の減給は、企業が自由に決められるものではありません。 基本給は労働契約の中核となる条件であり、従業員の生活に直接影響するため、会社の判断だけで一方的に下げることは原則として難しいと考えられています。 たとえ経営上の事情があっても、法的なルールや手続きを無視して減給すると、未払い賃金の請求や労使トラブル、訴訟に発展するおそれがあります。 そのため、減給の可否を考える際は、同意の有無、就業規則の内容、制度変更の合理性などを総合的に確認することが重要です。
原則として簡単にはできない
基本給は、労働者が会社で働くうえで最も重要な労働条件のひとつです。 そのため、会社が業績悪化や人件費削減を理由にしても、従業員の納得や法的根拠がないまま簡単に引き下げることはできません。 特に、採用時の労働条件通知書や雇用契約書で基本給が明示されている場合、その金額は契約内容として保護されます。 企業側としては、減給を検討する前に、配置転換や手当の見直し、希望退職の募集など、他の手段で対応できないかを慎重に検討する必要があります。
労働条件の変更に該当する
基本給の引き下げは、単なる社内調整ではなく、労働条件の変更にあたります。 労働条件とは、賃金、労働時間、職務内容、勤務地など、働くうえでの重要な約束事を指します。 その中でも賃金は特に重要性が高く、基本給の減額は労働者にとって明確な不利益です。 したがって、会社が減給を行うには、本人の個別同意を得るか、就業規則の変更によって法的に有効な形で実施する必要があります。 単に社内通達を出しただけでは足りず、適切な手続きと説明が不可欠です。
基本給とは何か
基本給とは、毎月支払われる給与のうち、残業手当や通勤手当、役職手当などの各種手当を除いた、賃金の中心となる部分を指します。 会社ごとに決め方は異なりますが、一般的には職務内容、能力、経験、勤続年数、等級などをもとに設定されます。 基本給は単に毎月の支給額の一部というだけでなく、賞与や時間外手当、退職金の算定基礎になることも多いため、労働者にとって非常に重要です。 減給の問題を理解するには、まず基本給の役割を正しく押さえることが欠かせません。
賃金の中心となる項目
基本給は、給与明細の中でも土台となる賃金項目です。 月給制の会社では、毎月の安定した収入の中心を占めることが多く、労働者の生活設計に大きく関わります。 各種手当は会社の制度変更で増減しやすい一方、基本給は継続的に支払われる前提で設定されるため、労働契約上の重要性が高いのが特徴です。 そのため、基本給が下がると、単に月々の収入が減るだけでなく、将来の昇給や賞与にも影響する可能性があります。 企業はこの重みを理解したうえで対応しなければなりません。
多くの手当や賞与の基礎
基本給は、会社によっては残業代の基礎賃金や賞与の算定基礎、退職金の計算基準として使われます。 そのため、基本給の減額は、表面的な月例賃金の減少にとどまらず、関連する支給項目全体に波及することがあります。 たとえば、賞与が「基本給の何か月分」と定められている場合、基本給が下がれば賞与額も下がる可能性があります。 このように、基本給の変更は労働者に与える影響が大きいため、法的にも実務的にも慎重な判断が求められます。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 基本給 | 手当を除いた給与の中心部分 |
| 月給 | 基本給に各種固定的手当を含むことがある毎月の賃金 |
| 手取り | 税金や社会保険料を差し引いた実際の受取額 |
| 賞与 | 基本給や評価を基準に算定されることが多い一時金 |
基本給減額の法律問題
基本給の減額には、労働法上の大きな論点があります。 特に問題となるのは、労働条件の不利益変更にあたるかどうか、そしてその変更に合理性があるかどうかです。 賃金は労働者の生活の基盤であるため、裁判例でも厳しく判断される傾向があります。 会社が減給を進める場合には、単に経営判断として必要というだけでは足りず、変更の必要性、内容の相当性、説明の丁寧さ、代償措置の有無などを含めて総合的に検討しなければなりません。
労働条件の不利益変更
基本給の引き下げは、労働者にとって明らかな不利益変更です。 不利益変更とは、従来よりも労働者に不利な内容へ労働条件を変えることをいいます。 賃金の減額はその典型例であり、労働者の生活に直結するため、法的には特に慎重な扱いが求められます。 会社が一方的に通知しても、それだけで当然に有効になるわけではありません。 個別の同意があるか、就業規則の変更が合理的であるかなど、厳格な要件を満たす必要があります。
合理性が求められる
就業規則の変更によって基本給を減額する場合、重要になるのが合理性です。 合理性とは、会社側の必要性だけでなく、労働者が受ける不利益の大きさ、変更後の制度内容の妥当性、労使交渉の経緯、代替措置の有無などを踏まえて、社会通念上相当といえるかを判断する考え方です。 たとえば、経営危機を回避するために全社員一律で一時的に減額し、役員報酬も同時に削減するようなケースは、一定の合理性が認められる余地があります。 一方で、説明もなく特定の社員だけを狙い撃ちにするような減給は、違法と判断されやすいです。
減給が認められるケース
基本給の減給が常に違法というわけではありません。 法律上、一定の条件を満たす場合には、減額が有効と認められることがあります。 代表的なのは、労働者本人が自由な意思で同意している場合と、就業規則や人事制度の変更に合理性が認められる場合です。 ただし、どちらのケースでも、会社が十分な説明を行い、手続きを適切に進めていることが前提になります。 形式だけ整えても、実質的に強制や不公平があれば無効となる可能性があるため注意が必要です。
労働者の同意がある場合
基本給の減額は、労働者が内容を理解したうえで自由に同意していれば、有効となる可能性があります。 ただし、ここでいう同意は、会社からの圧力や誤解のもとで得られたものでは足りません。 減額の理由、金額、開始時期、今後の処遇への影響などが十分に説明され、本人が納得して受け入れていることが重要です。 また、口頭だけでは後から争いになりやすいため、合意書や同意書を作成し、双方で保管しておくことが実務上は不可欠です。
合理的な制度変更
個別同意がない場合でも、就業規則や賃金制度の変更が合理的であれば、減給が有効とされる余地があります。 たとえば、年功的な賃金体系を職務・役割ベースへ見直す、等級制度の再設計に伴って賃金テーブルを変更する、といったケースです。 ただし、制度変更の目的が明確で、全体として公平性があり、労働者への不利益をできるだけ抑える工夫が必要です。 経過措置を設ける、激変緩和措置を取る、説明会を実施するなどの対応が、合理性判断で重要な要素になります。
労働者の同意とは
減給における労働者の同意は、単に反対しなかったという程度では足りません。 法的に有効な同意といえるためには、労働者が減額の内容と影響を理解し、自由な意思で受け入れていることが必要です。 特に、会社と労働者の間には立場の差があるため、裁判では同意の有無が厳しく見られる傾向があります。 そのため企業は、説明の記録を残し、書面で明確に確認するなど、後から争いにならない形で手続きを進めることが大切です。
個別の合意
基本給の減額については、労働者一人ひとりとの個別合意が重要です。 たとえ全社員向けの説明会を開いていても、個々の従業員が具体的な減額内容を理解し、納得しているとは限りません。 特に、減額幅が大きい場合や、特定の職種・役職だけに影響する場合には、個別面談を行い、事情や今後の見通しを丁寧に説明する必要があります。 本人が異議を留めたまま署名したような場合は、真意に基づく合意と認められない可能性もあるため、慎重な運用が求められます。
書面での確認
減給の合意は、必ず書面で残しておくべきです。 口頭でのやり取りだけでは、後日「説明を受けていない」「同意していない」と争われた際に、会社側が立証しにくくなります。 書面には、減額前後の基本給、適用開始日、減額理由、対象期間、今後の見直しの有無などを明記するとよいでしょう。 また、署名押印だけでなく、説明日や面談記録、配布資料もあわせて保存しておくことで、手続きの適正さを示しやすくなります。
- 減額理由を具体的に説明する
- 減額前後の金額を明示する
- 適用開始日と対象期間を記載する
- 本人の署名入り書面を保管する
- 面談記録や説明資料も残す
就業規則変更による減給
基本給の減額は、就業規則の変更によって行われることがあります。 ただし、就業規則を変えれば自動的に有効になるわけではありません。 労働者に不利益となる変更については、内容に合理性があり、かつ適切な手続きが取られていることが必要です。 具体的には、変更の必要性、制度内容の相当性、労働者への周知、労使協議の状況などが重要な判断材料になります。 企業は、形式的な規則改定ではなく、実質的に納得性のある制度設計を行うことが求められます。
合理性の判断
就業規則変更による減給が有効かどうかは、最終的に合理性の有無で判断されます。 合理性の判断では、会社の経営上の必要性だけでなく、労働者が受ける不利益の大きさ、変更後の制度の公平性、代償措置の有無、労働組合や従業員代表との協議状況などが総合的に考慮されます。 たとえば、賃金制度全体を見直して職務内容に応じた処遇へ改める場合でも、急激な減収が生じるなら経過措置が必要になることがあります。 丁寧な説明と段階的な導入が、合理性を支える重要な要素です。
労働契約法の考え方
労働契約法では、就業規則の変更によって労働条件を変更する場合、変更後の就業規則が合理的であり、かつ労働者に周知されていることが必要とされています。 つまり、会社が一方的に規則を作り替えただけでは足りず、その内容が社会通念上相当であることが求められます。 基本給の減額は不利益が大きいため、合理性のハードルも高くなります。 企業としては、変更の背景、目的、代替案の検討状況、労使協議の経過などを整理し、客観的に説明できる状態にしておくことが重要です。
合理性判断のポイント
基本給減額の有効性を左右する合理性判断では、いくつかの重要な視点があります。 特に重視されるのは、なぜ変更が必要なのかという必要性と、労働者にどれほどの不利益が生じるのかという程度です。 これに加えて、変更後の制度が公平か、代償措置があるか、説明や協議が尽くされているかも見られます。 企業は、単に「経営が厳しいから」と説明するのではなく、客観的資料に基づいて必要性と相当性を示すことが求められます。
変更の必要性
合理性を判断するうえで、まず問われるのが変更の必要性です。 会社がなぜ基本給を下げなければならないのか、その理由が具体的かつ客観的である必要があります。 たとえば、売上の大幅減少、固定費の増大、事業再編、賃金制度の抜本的見直しなど、明確な背景が求められます。 また、減給以外の手段を検討したかどうかも重要です。 採用抑制、役員報酬の削減、手当の見直しなどを経ずに、いきなり基本給を下げると、必要性が弱いと判断される可能性があります。
不利益の程度
労働者に生じる不利益の大きさも、合理性判断の中心です。 基本給が数千円下がるのと、数万円単位で下がるのとでは影響が大きく異なります。 さらに、賞与や退職金、残業代の基礎額まで連動して下がる場合、実際の不利益は表面上の減額以上に大きくなります。 そのため、企業は減額幅を抑える、段階的に実施する、一定期間の補填措置を設けるなど、不利益を緩和する工夫を行うことが望まれます。 こうした配慮の有無が、制度変更の有効性に大きく影響します。
経営状況と減給
企業が基本給の減額を検討する背景として多いのが、経営状況の悪化です。 売上減少や利益率の低下、資金繰りの悪化などが続くと、人件費の見直しが議題に上がることがあります。 ただし、経営が厳しいという事情だけで、直ちに減給が正当化されるわけではありません。 本当に減給が必要なのか、他のコスト削減策では足りないのか、役員や管理職も相応の負担をしているのかなど、総合的な検討が必要です。 経営事情を理由にする場合ほど、説明責任は重くなります。
経営悪化
経営悪化は、減給の必要性を基礎づける事情になり得ます。 たとえば、赤字が継続している、受注が急減している、金融機関からの支援条件として固定費削減が求められているといった状況では、賃金見直しの必要性が高まることがあります。 しかし、単に利益が前年より減った程度では、直ちに基本給減額の合理性が認められるとは限りません。 財務資料や事業計画をもとに、どの程度深刻な状況なのかを示し、減給以外の選択肢も検討したうえで判断することが重要です。
人件費見直し
人件費の見直しは、経営改善策のひとつとして行われますが、基本給の減額は最後の手段として考えるべきです。 まずは残業削減、採用計画の見直し、外注費の圧縮、役員報酬の減額、手当制度の再設計など、他の方法を検討するのが一般的です。 それでもなお人件費の圧縮が必要な場合に、労使協議を経て基本給の見直しが議論されます。 このとき、特定の従業員だけに負担を集中させるのではなく、全体の公平性を意識した制度設計が求められます。
降格による基本給減額
基本給の減額は、経営上の理由だけでなく、降格に伴って行われることもあります。 たとえば、管理職から一般職へ役職が下がる場合や、等級制度上の格付けが見直される場合です。 ただし、降格があれば当然に減給できるわけではなく、その根拠となる人事制度や評価制度が明確で、公平に運用されていることが必要です。 恣意的な降格や、退職に追い込む目的の処遇変更は違法と判断されるおそれがあるため、制度と運用の整合性が重要になります。
人事制度に基づく場合
降格による基本給減額が認められやすいのは、就業規則や賃金規程、人事制度に明確な根拠がある場合です。 たとえば、等級ごとに賃金レンジが定められており、職務内容や責任の重さに応じて等級が上下する仕組みが整っていれば、降格に伴う減額にも一定の合理性が認められます。 ただし、制度があるだけでは不十分で、実際の運用が公平であることが必要です。 特定の社員だけに厳しく適用したり、基準が曖昧だったりすると、減額の有効性が疑われる可能性があります。
評価制度との連動
基本給が評価制度と連動している会社では、評価結果に応じて昇給停止や降給が生じることがあります。 この場合も、評価基準が明確で、事前に従業員へ周知されていることが重要です。 また、評価が上司の主観だけで決まるような仕組みでは、公平性に疑問が生じやすくなります。 評価項目、判定方法、フィードバックの手順を整え、本人が結果に納得できる運用を行うことが、減額の正当性を支えるポイントです。 制度の透明性が低いと、降格や減給が不当人事と受け取られやすくなります。
懲戒処分としての減給
基本給の減額と似た言葉に、懲戒処分としての減給があります。 ただし、これは通常の賃金制度変更とは別の問題であり、労働基準法による厳しい制限があります。 懲戒減給は、就業規則に懲戒事由と処分内容が定められていることを前提に、従業員の規律違反に対して行われる制裁です。 企業が自由に金額を決められるわけではなく、1回あたりや総額に上限があります。 基本給の引き下げを懲戒の名目で行うと違法となるおそれがあるため、区別して理解することが大切です。
労働基準法の制限
懲戒処分としての減給には、労働基準法91条の制限が適用されます。 これは、会社が制裁として賃金を差し引く場合に、過大な減額を防ぐためのルールです。 就業規則に懲戒減給の定めがあっても、この法定上限を超えることはできません。 また、懲戒処分そのものについても、事実関係の確認、本人への弁明機会の付与、処分の相当性などが求められます。 単に会社に逆らった、上司と合わないといった理由で減給することは許されません。
減給の上限
懲戒減給には明確な上限があります。 1回の事案について減給できる額は、平均賃金の1日分の半額を超えてはならず、複数回の事案があっても、1賃金支払期における減給総額はその期の賃金総額の10分の1を超えてはなりません。 このルールは、懲戒を理由に生活を脅かすほどの賃金カットが行われるのを防ぐためのものです。 なお、これは懲戒減給の制限であり、基本給そのものを恒久的に引き下げることを正当化するものではありません。
減給の制限ルール
減給には、場面に応じた制限ルールがあります。 特に懲戒処分としての減給では、法律上の上限が明確に定められています。 一方、基本給の制度変更による減額では、同じ数値基準が直接適用されるわけではありませんが、不利益変更としての合理性が厳しく問われます。 企業実務では、この2つを混同しないことが重要です。 懲戒減給の上限内だから問題ないと考えて、基本給の恒久的引き下げを行うと、法的に大きな誤りとなる可能性があります。
1回の減給額の上限
懲戒処分として1回の事案について減給する場合、その上限は平均賃金1日分の半額までです。 たとえば、平均賃金1日分が1万円であれば、1回の懲戒事案で減給できるのは5,000円までとなります。 これは、遅刻や服務規律違反などに対して、会社が過大な制裁を科すことを防ぐためのルールです。 なお、ここでいう上限はあくまで懲戒減給に関するものであり、賃金制度の見直しによる基本給変更とは別に考える必要があります。
総額の上限
懲戒減給では、複数の事案があったとしても、1賃金支払期における減給総額は賃金総額の10分の1までに制限されます。 たとえば、月給30万円の従業員であれば、その月に懲戒減給できる総額は3万円までです。 この制限により、会社が複数の理由を並べて過大な減給を行うことが防がれています。 企業は、懲戒処分を行う際に就業規則の定めと法定上限の両方を確認し、違法な処分にならないよう注意しなければなりません。
| 区分 | 主なルール |
|---|---|
| 懲戒減給の1回上限 | 平均賃金1日分の半額まで |
| 懲戒減給の総額上限 | 1賃金支払期の賃金総額の10分の1まで |
| 基本給の制度変更 | 数値上限ではなく合理性・同意・手続きが重要 |
違法になりやすいケース
基本給の減額が違法と判断されやすいのは、会社が一方的に進めた場合や、従業員への説明が不十分な場合です。 賃金は生活の基盤であるため、裁判や労働審判でも厳しく見られます。 特に、就業規則の根拠がない、同意を取っていない、制度変更の必要性が曖昧、対象者の選定が不公平といった事情があると、無効とされる可能性が高まります。 企業は、減給の必要性があると感じても、まず違法リスクの高いパターンを把握し、避けることが大切です。
一方的な給与引き下げ
最も典型的に問題となるのが、会社が従業員の同意なく一方的に基本給を引き下げるケースです。 たとえば、「来月から全員2万円減額する」と通達するだけでは、法的に有効とはいえない可能性が高いです。 労働契約で定めた賃金を会社の判断だけで変更することは、原則として認められません。 特に、対象者の選定に合理的理由がない場合や、退職を促す目的が疑われる場合には、不当な処遇として大きな問題になります。
説明不足
減給の理由や内容について十分な説明がない場合も、トラブルになりやすいです。 従業員から見れば、なぜ自分の基本給が下がるのか、いつまで続くのか、今後の昇給や賞与にどう影響するのかがわからなければ、納得しにくいのは当然です。 説明不足のまま署名を求めたり、異議を述べにくい雰囲気で進めたりすると、真意に基づく同意とは認められない可能性があります。 企業は、資料を用いて丁寧に説明し、質問の機会を設けることが重要です。
トラブルを防ぐポイント
基本給の減額は、企業にとっても従業員にとっても非常にセンシティブな問題です。 そのため、法的に有効かどうかだけでなく、現場で納得感を得られるかという視点も欠かせません。 トラブルを防ぐには、事前説明を丁寧に行い、合理的な理由を客観的に示し、手続きを透明に進めることが重要です。 また、説明内容や協議の経過を記録として残しておくことで、後日の紛争予防にもつながります。 減給は結論だけでなく、進め方そのものが問われるテーマです。
事前説明
減給を検討する際は、実施前の説明が極めて重要です。 従業員に対して、なぜ見直しが必要なのか、どの制度に基づくのか、減額幅はいくらか、いつから適用されるのかを具体的に伝える必要があります。 また、説明は一方通行ではなく、質問や意見を受け止める場を設けることが大切です。 説明会、個別面談、書面配布を組み合わせることで、理解不足や誤解を減らしやすくなります。 事前説明が丁寧であるほど、後の紛争リスクは下がります。
合理的理由
従業員の納得を得るには、減給の合理的理由を明確に示すことが欠かせません。 単に「会社の方針です」と伝えるだけでは不十分です。 経営悪化、制度改定、職務変更、降格など、どの理由であっても、客観的な資料や制度上の根拠を示しながら説明する必要があります。 さらに、なぜ他の方法ではなく基本給の見直しが必要なのか、どのような公平性に配慮したのかまで説明できると、理解を得やすくなります。
- 減給の背景を数値や資料で示す
- 対象者の基準を明確にする
- 説明会と個別面談を併用する
- 質問への回答内容を記録する
- 経過措置や代償措置を検討する
人事制度の整備
基本給の減額をめぐるトラブルを防ぐには、平時から人事制度を整備しておくことが重要です。 等級制度や評価制度が曖昧なままだと、降格や賃金見直しの際に恣意的な運用と受け取られやすくなります。 逆に、職務や役割に応じた等級、明確な評価基準、賃金テーブルが整っていれば、処遇変更の根拠を説明しやすくなります。 減給の場面だけを切り取って対応するのではなく、制度全体の整合性を高めることが、長期的な労務リスク対策になります。
等級制度
等級制度は、従業員の役割や責任、能力の水準を整理し、それに応じた処遇を決めるための基盤です。 等級ごとに求められる職務内容や期待役割、賃金レンジが明確になっていれば、昇格や降格に伴う基本給の変動にも説明がつきやすくなります。 一方で、等級の定義が曖昧だと、なぜその人が降格したのか、なぜ減額幅がその金額なのかを説明しにくくなります。 制度設計では、職務基準と賃金基準の対応関係を明確にすることが大切です。
評価制度
評価制度は、基本給の昇降や昇格・降格の判断に直結する重要な仕組みです。 評価項目が不明確だったり、上司の主観に偏っていたりすると、減給の正当性が疑われやすくなります。 そのため、成果、行動、能力などの評価軸を明示し、評価の手順やフィードバック方法を整えることが必要です。 また、評価結果に対する説明や再確認の機会を設けることで、従業員の納得感を高められます。 透明性の高い評価制度は、減給トラブルの予防に大きく役立ちます。
企業が注意すべき点
基本給の減額を検討する企業は、法的な要件だけでなく、実務上の証拠管理や専門家活用にも注意を払う必要があります。 減給の場面では、後から「説明がなかった」「同意していない」「制度が不公平だ」と争われることが少なくありません。 そのため、説明資料、面談記録、同意書、就業規則改定の経緯などをきちんと残しておくことが重要です。 また、判断に迷う場合は、社会保険労務士や弁護士などの専門家に相談し、違法リスクを事前に減らすことが望まれます。
記録の保存
減給に関する記録は、企業防衛の観点から非常に重要です。 具体的には、就業規則や賃金規程の改定履歴、労使協議の議事録、説明会資料、個別面談メモ、同意書、メールのやり取りなどを保存しておくべきです。 これらの記録があれば、後日紛争になった際に、会社がどのような手続きを踏み、どのような説明を行ったのかを示しやすくなります。 逆に記録がないと、適切に進めたつもりでも立証が難しくなるため、日頃から文書管理を徹底することが大切です。
専門家への相談
基本給の減額は、労働契約法、労働基準法、就業規則実務、裁判例の理解が必要になるため、判断が難しいテーマです。 自社だけで進めると、制度設計や手続きに見落としが生じることがあります。 そのため、減給を検討する段階で、社会保険労務士や弁護士に相談することが有効です。 専門家の助言を受ければ、同意書の作成、就業規則変更の進め方、説明方法、リスクの高い表現の回避など、実務面での精度を高められます。
まとめ|基本給減給は慎重な対応が必要
基本給の減給は、企業が自由に行えるものではなく、労働条件の重要な変更として厳しく判断されます。 原則として一方的な引き下げは難しく、労働者の個別同意があるか、就業規則や人事制度の変更に合理性があることが必要です。 また、減給は月々の賃金だけでなく、賞与や退職金などにも影響し得るため、従業員に与える不利益は小さくありません。 企業は、制度、説明、記録、専門家活用の4点を意識しながら、慎重に進めることが大切です。
同意または合理的制度変更
基本給減額が認められる中心的なルートは、労働者の有効な同意を得ること、または合理的な制度変更を行うことです。 どちらの場合でも、会社の都合だけで進めるのではなく、必要性や公平性を丁寧に示すことが求められます。 特に制度変更による減額では、変更の必要性、不利益の程度、代償措置、労使協議の状況などが総合的に見られます。 形式だけ整えるのではなく、実質的に納得性のある運用を目指すことが重要です。
適切な手続きが重要
基本給の減給では、結論以上に手続きの適切さが重要です。 事前説明を行い、必要に応じて個別面談を実施し、書面で合意を確認し、関連資料を保存することが、トラブル防止につながります。 また、就業規則変更を伴う場合は、周知や労使協議を含めた法的手続きを丁寧に進める必要があります。 少しでも不安がある場合は専門家に相談し、違法な減給や無用な紛争を避けることが、企業にとって最も現実的で安全な対応といえるでしょう。
動画で解説
この記事を書いた人
- 社会保険労務士・採用定着士
- 岩本 浩一(いわもと こういち)
社会保険労務士法人あいパートナーズ 代表社員
採用と定着に特化した人事労務のスペシャリスト。愛媛県社会保険労務士会所属(登録番号:3806011)。愛媛県松山市を拠点に、地元企業のみならず全国の企業の組織成長を支援している。「人手不足を解消し、持続可能な組織をつくる」ことをミッションに掲げ、理論と現場のリアリティを融合させたコンサルティングを展開。
特に「企業型確定拠出年金(企業型DC)」を活用した退職金制度の構築に定評がある。従業員の将来設計を支える福利厚生の整備と、経営側のコスト効率化を両立させる専門的なスキームにより、採用力の強化と離職率の低下を同時に実現。数多くの中小企業における組織課題を解決へ導いてきた。
地域経済への貢献にも注力しており、地元メディア『愛媛経済レポート』にて採用定着をテーマとした連載を長期にわたり担当。また、AI技術を活用した情報発信のパイオニアとしても活動しており、YouTubeチャンネル『あいパートナーズ AI労働解説』やPodcast『博識な猫タマとクロの資料解説』を通じて、労働法や人事トレンドの最新情報を、経営者や人事担当者に向けて分かりやすく解説している。






















