この記事は、育児中の従業員や人事担当者、経営者を主な対象とし、2025年の育児・介護休業法改正で注目される「養育両立支援休暇」について、制度の概要、法的な位置づけ、既存制度との違い、運用上の注意点や導入時のポイントまでを分かりやすく解説します。 制度をどう設計すれば実際に使える仕組みになるか、具体的な検討項目やトラブル回避の実務的なアドバイスも盛り込み、会社と従業員双方が納得できる運用のヒントを提供します。
養育両立支援休暇とは何か
仕事と育児の両立を支援するための休暇制度
養育両立支援休暇は、就業しながら子どもの養育を行う従業員が、保育園や幼稚園、小学校入学前の子どもに要する対応を行いやすくすることを目的に設けられる休暇制度です。 業務と育児のバランスを取りやすくする短期の休暇を年間一定日数以上付与することが求められるケースが多く、時間単位での取得を前提とした柔軟な設計が可能です。
育児休業とは別に設けられる支援制度
育児休業が出産直後から比較的長期間の休業を想定しているのに対し、養育両立支援休暇は日常の育児負担や突発的な事情に対応するための短期的な休暇です。 育児休業との併用や他の育児関連制度との整合性を意識して設計する必要があり、従業員が実際に使える制度にするための運用ルール整備が重要になります。
養育両立支援休暇の法的な位置づけ
法律で義務付けられた制度ではない
改正法の施行により養育両立支援休暇が注目されていますが、基本的には企業が就業規則で定める事項として位置付けられ、全ての企業に対して一律の義務として課されるものではありません。 ただし改正の内容や行政ガイドラインにより、一定の措置を講ずることが期待される業種や規模の会社もあり、外部環境や助成金の要件によっては実質的な導入が事実上必須となる場合があります。
企業が任意で設ける福利厚生制度
養育両立支援休暇は企業の福利厚生として自由に設計できる面があり、有給扱いにするか無給にするか、年間付与日数や時間単位の可否、対象年齢などを企業が定めます。 戦略的人材マネジメントの観点からは、単に規程を置くだけでなく、制度を採用ブランディングや社員定着施策として活用することが推奨されます。
育児休業・子の看護休暇との違い
育児休業は長期取得を前提とした制度
育児休業は、出生直後から一定期間にわたって仕事を離れることを想定した制度であり、雇用保険による給付や育児休業給付金の対象となる点が特徴です。 労働時間の全休または部分的短時間勤務を前提とすることが多く、法的な保護や給付体系が整備されています。 会社は休業からの復帰や職場復帰支援の枠組みも考慮する必要があります。
子の看護休暇は法律上の権利
子の看護休暇は育児・介護休業法で明確に認められている休暇で、一定の年齢以下の子どもが疾病やケガで看護が必要な場合に取得できる法定休暇です。 企業は原則としてこれを認める義務があり、有給扱いとされる場合や労基法や就業規則の規定に従う必要があるため、養育両立支援休暇とは違って法的根拠と最低限の運用ルールが存在します。
養育両立支援休暇は柔軟な運用が可能
養育両立支援休暇は企業が裁量で日数や取得単位を設定できるため、時間単位で細かく使えるようにしたり、年間でまとまった日数を付与したりするなど実態に合わせた運用が可能です。 重要なのは、他の法定休暇との重複や有給・無給の扱いを明確にして従業員に誤解なく周知することです。
| 制度 | 対象 | 法的根拠 | 取得期間・単位 | 給与扱い |
|---|---|---|---|---|
| 育児休業 | 出生後の子を養育する従業員 | 育児・介護休業法(法定) | 長期の連続休業が前提 | 育児休業給付金等で一部補助 |
| 子の看護休暇 | 一定年齢以下の病児を看護する従業員 | 育児・介護休業法(法定) | 日単位、短期の取得が中心 | 就業規則次第で有給扱いも |
| 養育両立支援休暇 | 就業しつつ子を養育する従業員(企業規程で定める) | 企業の福利厚生として任意で設定 | 年間付与日数を設定、時間単位可 | 有給/無給を企業が決定 |
養育両立支援休暇の主な取得目的
保育園や学校行事への参加
保育園や幼稚園、学校の発表会や参観日、保護者会など子どもの行事に参加するための休暇取得は、養育両立支援休暇の典型的な目的です。 こうした行事は平日の日中に行われることが多く、有給や時間単位の休暇で対応できる仕組みがあると従業員の負担が軽減され、家庭と仕事の両立が現実的になります。
子どもの送迎や一時的な付き添い
園や学校への送迎、病院受診、習い事の付き添いなど日常的だが予定を調整しづらい用事に対応するために、短時間の休暇や時間単位取得が活用されます。 企業が時間単位での取得を認めることで、従業員は仕事と育児を切れ目なく調整でき、急な早退や欠勤を減らす効果も期待できます。
育児に伴う突発的な対応
子どもの急な発熱や保育園からの呼び出し、学校でのトラブルなど予測できない事態への対応は、短時間で対応できる休暇があると非常に助かります。 養育両立支援休暇をこうした突発的なニーズに活用できるように運用すれば、従業員の不安を減らし、結果として欠勤や遅刻に伴う業務影響を最小化できます。
- 行事参加のための半日〜1日単位の取得
- 送迎や受診対応のための時間単位取得
- 急病時の短期対応のための予備日数の確保
取得できる対象者の範囲
子を養育している労働者が対象
基本的には子どもを養育している労働者を対象とし、共働きの父母やひとり親、育児を担う近親者がいる場合の適用範囲も企業が規程で定められます。 対象範囲を広くとるか、例えば扶養義務のある保護者だけに限定するかは、企業の方針とコスト負担とのバランスで決めることになります。
年齢要件は会社が独自に定める
法的に厳密な年齢要件が定められていない場合、企業は対象となる子どもの年齢を就業規則等で明確に設定できます。 行政のガイドラインや他社事例を参考に、例えば3歳から小学校入学前までなど現場のニーズに応じた設定をすることで制度の効果を高めることが重要です。
取得日数や時間単位の考え方
日数上限は会社が自由に設定できる
養育両立支援休暇の年間付与日数は原則として企業が就業規則で定めます。 経営リソースや業務特性に合わせて10日程度を目安にする事例が多い一方で、企業がより柔軟に設定して短期集中で付与することも可能です。 重要なのは、設定した日数で実際に従業員が育児対応できるかどうかを検証することです。
時間単位取得とすることも可能
1日単位だけでなく時間単位での取得を認めることで、終業時間の変更や短時間の付き添いに対応しやすくなります。 時間単位で運用する場合は、最小取得単位や丸め処理、勤怠システムでの取り扱いを明確に規定し、給与計算や勤怠管理と整合性を取ることが必要です。
有給か無給かの扱い
有給休暇として扱うかは会社次第
養育両立支援休暇を有給扱いにするかどうかは企業の判断に委ねられます。 有給とすることで従業員の利用意欲が高まる反面、給与負担が増えるためコストと効果を比較検討し、必要に応じて一部有給化や一部無給化など段階的な運用を検討するとよいでしょう。
無給休暇として設けることも可能
無給扱いとすることで企業の給与負担を抑えられますが、利用が進まないリスクがあります。 無給にする場合でも、時間単位で年次有給休暇と併用できるルールを設けるなど従業員の負担軽減策を講じると制度の実効性が高まります。
就業規則への記載の重要性
制度内容を明確に定める必要がある
就業規則に養育両立支援休暇の趣旨、対象者、付与日数、取得単位、給与扱い、申請手続きなどを明文化しておくことはトラブル防止のために不可欠です。 曖昧な運用は現場の判断差を生み、差別や不公平感の原因になるため、具体的で運用可能な文言を整備することが重要です。
取得条件や手続きを具体的に記載する
申請のタイミングや申請方法、上長承認の流れ、必要書類、時間単位取得時のフォーマットなどを就業規則や運用マニュアルで示すことで、現場の混乱を防げます。 また、管理職向けのFAQや事例集を用意しておくと運用のばらつきを抑えられます。
養育両立支援休暇を設けるメリット
育児中社員の定着率向上につながる
育児に配慮した制度を設けることで、従業員の離職率低下や早期復職を促進できます。 従業員のワークライフバランスが改善されれば生産性やエンゲージメントの向上にもつながり、中長期的には採用コストや教育コストの削減効果が期待できます。
採用時の企業イメージ向上
育児支援制度を整備している企業は、働きやすさを重視する求職者にとって魅力的な選択肢になります。 特に育児期の人材確保が課題となる業界では、制度の有無が採用競争力に直結するため、制度設計を採用ブランディングと連動させることが有効です。
運用上の注意点
特定の社員だけが利用しないよう配慮
部署や職種、性別によって利用に差が出ると不公平感や職場の摩擦が生じます。 管理職や人事が利用促進を図るとともに、利用しやすい職場文化づくりや代替業務の仕組みを整備して、特定の社員だけが負担を負う状況を避ける工夫が必要です。
業務に支障が出ない体制づくり
休暇取得による業務の空白を補うための代替要員や業務の標準化、マニュアル整備、事前の業務引き継ぎルールを作ることで、休暇取得が業務停滞につながらないようにします。 柔軟な働き方と業務継続の両立を図るための仕組みづくりが重要です。
- 部署間での代替体制の構築
- 業務手順書やFAQの整備
- 取得前の協議とスケジュール調整の仕組み
管理職が理解しておくべきポイント
取得を妨げる発言や対応をしない
管理職が取得に否定的な発言をすると、従業員は制度を使いにくく感じます。 制度趣旨を理解し、取得を阻害するような発言や不利益な対応をしないこと、そして取得しやすい職場づくりを率先して行うことが重要です。 管理職向けの研修やガイドライン整備も有効です。
ハラスメントとならないよう注意
育児を理由とする差別や嫌がらせはハラスメントに該当する可能性があります。 取得者に対する業務差し替えや評価への影響といった不利益取扱いを避けるために、明確な禁止規定と相談窓口を用意しておくことが求められます。
他の休暇制度との組み合わせ
有給休暇や時間単位年休との併用
年次有給休暇や時間単位年休との併用ルールを明確にしておくと、従業員は柔軟に時間を調整できます。 併用の際の優先順位や計算方法、申請フローを就業規則で示すことで混乱を防ぎ、管理部門の運用負荷も下げられます。
子の看護休暇との使い分け
子の看護休暇は疾病時の法定休暇、養育両立支援休暇は行事参加や送迎などの日常的な育児対応に使うなど目的を明確に区分すると運用がスムーズです。 重複して用いる場合の扱いや優先順位も規程で明確に定めておきましょう。
制度導入時に検討すべきこと
対象者と取得目的の整理
まずは対象となる従業員の範囲と、どのような育児ニーズに応える制度にするかを整理します。 対象年齢、年間付与日数、時間単位の可否、給与扱いなど主要項目を検討し、想定シナリオに基づいてコスト試算と影響分析を行うことが重要です。
社内周知とルールの統一
導入後は就業規則や社内ポータル、説明会などで周知徹底を図り、現場での運用基準を統一します。 FAQや事例集を作成し、管理職と人事が一貫した対応を行えるようにすることが、制度を実効化するための鍵となります。
トラブルを防ぐためのポイント
取得可否の判断基準を明確にする
申請が許可される条件や不可となる具体的事由を就業規則に明記することで、恣意的な判断を防ぎます。 また、申請に対する回答期限や不許可時の理由通知など、透明性を確保する手続きを設けることがトラブル予防につながります。
運用実態と規定のズレを防ぐ
規定どおりに運用されているか定期的にモニタリングし、運用実態と就業規則のズレがあれば速やかに改訂します。 従業員アンケートや利用状況の分析を通じて実効性を評価し、必要に応じて改善サイクルを回すことが重要です。
社労士に相談すべきケース
制度設計や就業規則改定が必要な場合
就業規則への落とし込みや労働条件通知書の改定、労使協定の整備など法的観点での確認が必要な場合は社労士に相談することをお勧めします。 専門家の助言により、法令順守と運用上の実効性を両立した規程を整備できます。
育児関連制度全体を見直したい場合
育児休業、短時間勤務、子の看護休暇、養育両立支援休暇など複数制度を一体的に見直す際は、社労士のサポートで制度間の整合性や助成金適用可否、労使協議の進め方を設計するとよいでしょう。 全社的な方針決定の支援を受けられます。
養育両立支援休暇を活かすために
形式だけでなく実際に使える制度にする
規程を作るだけで利用が進まないケースが多いため、現場で使いやすい仕組みづくりが重要です。 管理職研修、取得事例の共有、申請手続きの簡素化など実務面の整備を行い、従業員が安心して利用できる文化を醸成することが求められます。
仕事と育児の両立支援が定着につながる
継続的な評価と改善を繰り返すことで、制度が組織文化に定着し、従業員の満足度向上や離職率低下、採用競争力の強化につながります。 経営層のコミットメントと現場での運用体制を両輪で整えることが成功のポイントです。
この記事を書いた人
- 社会保険労務士・採用定着士
- 岩本 浩一(いわもと こういち)
社会保険労務士法人あいパートナーズ 代表社員
採用と定着に特化した人事労務のスペシャリスト。愛媛県社会保険労務士会所属(登録番号:3806011)。愛媛県松山市を拠点に、地元企業のみならず全国の企業の組織成長を支援している。「人手不足を解消し、持続可能な組織をつくる」ことをミッションに掲げ、理論と現場のリアリティを融合させたコンサルティングを展開。
特に「企業型確定拠出年金(企業型DC)」を活用した退職金制度の構築に定評がある。従業員の将来設計を支える福利厚生の整備と、経営側のコスト効率化を両立させる専門的なスキームにより、採用力の強化と離職率の低下を同時に実現。数多くの中小企業における組織課題を解決へ導いてきた。
地域経済への貢献にも注力しており、地元メディア『愛媛経済レポート』にて採用定着をテーマとした連載を長期にわたり担当。また、AI技術を活用した情報発信のパイオニアとしても活動しており、YouTubeチャンネル『あいパートナーズ AI労働解説』やPodcast『博識な猫タマとクロの資料解説』を通じて、労働法や人事トレンドの最新情報を、経営者や人事担当者に向けて分かりやすく解説している。






















