この記事は、企業の人事担当者や経営者、またはみなし残業制度の導入や運用に関心のある方を対象としています。 みなし残業(固定残業代)制度は、適切に設計・運用しなければ法的トラブルや従業員との信頼関係の悪化を招くリスクがあります。 本記事では、みなし残業の基本から法的要件、明細記載や就業規則整備のポイント、よくある誤解やトラブル事例まで、実務で役立つ情報をわかりやすく解説します。 みなし残業制度を正しく理解し、トラブルを未然に防ぐための賃金設計や運用のポイントを押さえましょう。
みなし残業(固定残業代)とは
一定の残業時間分をあらかじめ給与に含めて支給する制度
みなし残業(固定残業代)とは、企業が従業員に支給する給与の中に、あらかじめ一定時間分の残業代を含めて支給する制度です。 この制度を導入することで、毎月の残業時間の変動にかかわらず、一定額の残業代が給与に組み込まれます。 主に営業職や外回りが多く、労働時間の管理が難しい職種で利用されることが多いですが、どの職種でも導入は可能です。 ただし、みなし残業時間を超えた場合は追加の残業代支給が必要となるため、制度設計には注意が必要です。
- 給与に一定時間分の残業代を含めて支給
- 主に営業職などで導入される
- 超過分は別途支給が必要
実際に残業がなくても支給される点が特徴
みなし残業制度の大きな特徴は、実際に残業が発生しなかった場合でも、あらかじめ定めた残業時間分の残業代が支給される点です。 たとえば、月20時間分の固定残業代が給与に含まれている場合、実際の残業が0時間でも20時間分の残業代が支払われます。 この仕組みにより、従業員は残業の有無にかかわらず安定した収入を得ることができ、企業側も給与計算の手間を軽減できます。 ただし、みなし残業時間を超えた場合は追加支給が必要であり、逆に残業が少なくても控除はできません。
- 残業がなくても固定残業代は支給される
- 給与の安定性が高まる
- 控除はできない
固定残業代は残業代の前払いという位置づけ
固定残業代は、あくまで残業代の前払いという位置づけです。 そのため、みなし残業時間を超えた場合には、超過分の残業代を追加で支払う義務があります。 また、固定残業代を支給しているからといって、労働基準法上の残業代支払い義務が免除されるわけではありません。 企業は、みなし残業時間と実際の残業時間をしっかり管理し、超過分の支払い漏れがないよう注意する必要があります。 この点を誤解していると、未払い残業代請求などのトラブルにつながるため、正しい理解が不可欠ですのです。
- 固定残業代は残業代の前払い
- 超過分は追加支給が必要
- 残業代支払い義務は免除されない
みなし残業制度の法的要件
基本給と固定残業代の明確な区分が必要
みなし残業制度を導入する際は、基本給と固定残業代を明確に区分することが法的に求められています。 給与明細や雇用契約書において、基本給と固定残業代がそれぞれいくらなのかを明示しなければなりません。 この区分が曖昧な場合、全額が基本給とみなされ、固定残業代として認められないリスクがあります。 その結果、追加で残業代を支払う必要が生じることもあるため、明確な区分は非常に重要です。
- 基本給と固定残業代を明確に分ける
- 給与明細・契約書で区分を記載
- 曖昧だと全額が基本給とみなされるリスク
固定残業時間数と金額の明示が必須
みなし残業制度では、固定残業時間数とその金額を明示することが必須です。 たとえば「月給30万円(うち固定残業代20時間分3万円含む)」のように、何時間分の残業代がいくら支給されているかを具体的に記載する必要があります。 この明示がない場合、固定残業代として認められず、全額が基本給と判断される可能性があります。 トラブル防止のためにも、契約書や給与明細で明確に記載しましょう。
- 固定残業時間数を明示
- 固定残業代の金額を明示
- 契約書・給与明細で具体的に記載
内訳を給与明細に記載しなければ無効になる可能性
みなし残業代の内訳を給与明細に記載しない場合、固定残業代制度自体が無効と判断されるリスクがあります。 労働基準監督署の指導や裁判例でも、内訳の明示がなければ全額が基本給とみなされるケースが多く見られます。 そのため、毎月の給与明細には「基本給」「固定残業代(○時間分)」と明確に記載し、従業員にも説明することが重要です。 記載漏れがあると、後から未払い残業代を請求される可能性が高まるため、注意が必要です。
- 給与明細に内訳を明記
- 記載がないと無効になるリスク
- 従業員への説明も重要
みなし残業時間と実残業時間の関係
みなし残業時間を超えた分は追加支給が必要
みなし残業制度では、あらかじめ定めた固定残業時間を超えて実際に残業した場合、その超過分については別途残業代を支払う必要があります。 たとえば、月20時間分の固定残業代が支給されている場合、実際の残業が25時間であれば、超過した5時間分の残業代を追加で支給しなければなりません。 この追加支給を怠ると、未払い残業代として法的トラブルに発展するリスクが高まります。 実残業時間の管理と、超過分の正確な計算・支払いが不可欠です。
- 超過分は必ず追加支給
- 未払いは法的リスク
- 実残業時間の管理が重要
不足分を給与から控除することはできない
みなし残業制度では、実際の残業時間が固定残業時間に満たない場合でも、その分の残業代を給与から控除することはできません。 たとえば、20時間分の固定残業代が支給されていても、実際の残業が10時間だった場合、残りの10時間分を差し引くことは違法となります。 固定残業代は「前払い」の性質を持つため、残業が少なくても全額支給が原則です。 この点を誤解して控除してしまうと、労働基準法違反となるため注意が必要です。
- 不足分の控除は違法
- 残業が少なくても全額支給
- 前払いの性質を理解する
シフト制・変形労働時間制との組み合わせの注意
シフト制や変形労働時間制を導入している場合、みなし残業制度との併用には特に注意が必要です。 これらの制度では、法定労働時間の計算方法が異なるため、固定残業時間の設定や超過分の算出が複雑になります。 誤った運用をすると、未払い残業代が発生するリスクが高まります。 制度設計時には、労働時間の集計方法や残業代の計算ルールを明確にし、従業員にも十分に説明することが重要です。
- シフト制・変形労働時間制は要注意
- 計算方法が複雑化
- 制度設計と説明が重要
固定残業代に含められない手当
深夜手当・休日手当は別途支給が必要
深夜手当や休日手当を固定残業代に含める場合は、それぞれの時間数と金額を厳密に区別して記載する必要があります。区別が曖昧な場合は別途全額支給しなければなりません 深夜手当(22時~翌5時の労働)や休日手当(法定休日の労働)については、固定残業代とは別に支給しなければなりません。 これらを固定残業代に含めてしまうと、労働基準法違反となり、後から追加で支払う義務が生じる可能性があります。 給与明細や契約書で、深夜・休日手当の支給方法を明確にしておきましょう。
- 深夜手当は別途支給
- 休日手当も別途支給
- 固定残業代に含めるのは違法
通勤手当や役職手当などの上乗せは不可
通勤手当や役職手当、住宅手当などの各種手当は、固定残業代に含めることはできません。 これらは本来、残業とは無関係の手当であり、みなし残業代の一部として支給することは認められていません。 もしこれらの手当を固定残業代に含めてしまうと、全額が基本給とみなされ、残業代の未払いと判断されるリスクがあります。 各手当の性質を正しく理解し、給与体系を設計しましょう。
- 通勤手当は含められない
- 役職手当も不可
- 住宅手当なども対象外
営業手当として名前を変えても固定残業代扱いになるケース
「営業手当」や「業務手当」など、名称を変えて支給していても、実態として残業代の前払いであれば固定残業代とみなされます。 裁判例でも、手当の名称ではなく、その性質や支給根拠が重視されます。 そのため、名称を変えても残業代の支払い義務を免れることはできません。 手当の設計や説明の際は、実態に即した内容とし、誤解を招かないようにしましょう。
- 名称を変えても実態で判断
- 営業手当=固定残業代となる場合あり
- 裁判例でも名称より実態重視
みなし残業に関するよくある誤解
みなし残業=残業代が発生しない制度ではない
みなし残業制度は、あくまで一定時間分の残業代を前払いする仕組みであり、残業代が発生しない制度ではありません。 みなし残業時間を超えた場合は、追加で残業代を支払う義務があります。 「みなし残業だから残業代は不要」と誤解して運用すると、未払い残業代請求や法的トラブルの原因となります。 制度の本質を正しく理解し、適切に運用しましょう。
- 残業代が不要になる制度ではない
- 超過分は必ず支給
- 誤解によるトラブルに注意
固定残業代をつければ長時間労働させ放題にはならない
固定残業代を支給しているからといって、無制限に長時間労働をさせてよいわけではありません。 労働基準法や36協定による残業時間の上限規制は、みなし残業制度を導入していても適用されます。 また、過度な長時間労働は健康被害や労災リスクにもつながるため、企業は労働時間の適正な管理が求められます。 固定残業代の導入は、長時間労働の免罪符にはなりません。
- 長時間労働の免罪符ではない
- 上限規制は適用される
- 健康被害リスクも考慮
契約内容が不明確な場合は「固定残業代なし」と判断されることも
みなし残業制度を導入する際、契約内容が不明確だと、固定残業代が認められず「全額が基本給」と判断されることがあります。 その場合、過去にさかのぼって残業代の追加支払いを求められるリスクが高まります。 契約書や給与明細で、固定残業代の時間数・金額・内訳を明確に記載し、従業員にも説明することが重要です。 不明確な運用はトラブルの元となるため、十分に注意しましょう。
- 契約内容が不明確だと無効リスク
- 全額が基本給とみなされる場合あり
- 明確な記載と説明が必須
労働条件通知書・雇用契約書で明記すべき内容
固定残業代の時間数・金額・割増率
労働条件通知書や雇用契約書には、固定残業代の時間数・金額・割増率を明確に記載することが不可欠です。 たとえば「月給30万円(うち固定残業代20時間分3万円、割増率25%)」のように、具体的な数字を明示しましょう。 これにより、従業員が自分の給与の内訳や残業代の計算根拠を理解しやすくなり、後々のトラブル防止につながります。 また、割増率は法定通り(通常は25%)であることも明記しておくと安心です。
- 固定残業時間数を明記
- 固定残業代の金額を明記
- 割増率も記載
基本給と固定残業代の区分を明確にする
契約書や通知書では、基本給と固定残業代を明確に区分して記載することが重要です。 「基本給25万円+固定残業代5万円(20時間分)」のように、どの部分が基本給で、どの部分が残業代なのかをはっきり示しましょう。 この区分が曖昧だと、全額が基本給とみなされ、残業代の未払いと判断されるリスクがあります。 明確な区分は、従業員との信頼関係構築にもつながります。
- 基本給と固定残業代を分けて記載
- 曖昧な表現は避ける
- 信頼関係の構築にも有効
みなし時間を超えた残業代の計算方法
みなし残業時間を超えた場合の残業代計算方法も、契約書や通知書に明記しておくことが大切です。 たとえば「固定残業時間を超えた場合は、超過分について法定割増率で別途支給する」といった記載が必要です。 これにより、従業員が自分の残業代がどのように計算されるかを理解でき、納得感のある運用が可能となります。 計算方法が不明確だと、後からトラブルになることが多いため、必ず明記しましょう。
- 超過分の計算方法を明記
- 法定割増率で支給する旨を記載
- 従業員の納得感を高める
固定残業代運用でトラブルになりやすいポイント
退職時の未払い残業代請求
固定残業代制度を導入している企業では、退職時に未払い残業代を請求されるケースが少なくありません。 特に、みなし残業時間を大幅に超えて働いていた場合や、契約内容が不明確だった場合にトラブルが発生しやすいです。 退職後に過去3年分の未払い残業代を請求されることもあるため、日頃から正確な労働時間管理と明確な契約内容の提示が重要です。
- 退職時の請求リスクが高い
- 過去2~3年分の請求もあり得る
- 日頃の管理と明確な契約が重要
管理職(管理監督者)への設定の誤り
管理職(管理監督者)には、原則として残業代の支払い義務がありませんが、実態が管理監督者に該当しない場合は、固定残業代の設定が無効となることがあります。 肩書きだけでなく、実際の権限や勤務実態が管理監督者に該当するかどうかを慎重に判断しましょう。 誤った設定は、未払い残業代請求や法的トラブルの原因となります。
- 実態で判断される
- 肩書きだけでは不十分
- 誤設定はトラブルの元
実労働時間が固定残業時間を大幅に超えるケース
実際の労働時間が固定残業時間を大幅に超えている場合、従業員から不満や未払い残業代請求が発生しやすくなります。 また、長時間労働が常態化していると、労働基準監督署から是正勧告を受けるリスクも高まります。 固定残業時間の設定は、実態に即した現実的な範囲にとどめ、超過分は必ず追加で支給することが重要です。
- 大幅な超過は不満・請求の原因
- 是正勧告リスクも
- 現実的な設定と超過分の支給が重要
固定残業代制度を適切に運用するためのポイント
実残業時間の定期的なチェック
固定残業代制度を適切に運用するためには、実際の残業時間を定期的にチェックし、みなし残業時間と大きな乖離がないかを確認することが大切です。 乖離が大きい場合は、制度の見直しや追加支給の検討が必要です。 また、従業員の労働時間を正確に把握することで、未払い残業代のリスクを低減できます。 定期的なチェック体制を整えましょう。
- 定期的な実残業時間の確認
- 乖離があれば制度見直し
- 未払いリスクの低減
給与明細への明確な記載と説明
毎月の給与明細には、基本給と固定残業代の内訳を明確に記載し、従業員にもその内容を丁寧に説明しましょう。 これにより、従業員の納得感が高まり、トラブルの予防につながります。 記載漏れや説明不足は、後々の未払い残業代請求や信頼関係の悪化を招くため、注意が必要です。 明細の記載内容は定期的に見直し、法改正にも対応しましょう。
- 内訳を明確に記載
- 従業員への説明を徹底
- 記載漏れ・説明不足に注意
就業規則の整備と従業員への周知徹底
みなし残業制度を導入する際は、就業規則にもその内容を明記し、従業員に周知徹底することが重要です。 就業規則に記載がない場合や、従業員が内容を理解していない場合、制度自体が無効と判断されるリスクがあります。 説明会や書面での通知など、周知方法にも工夫を凝らし、全従業員が制度を正しく理解できるようにしましょう。
- 就業規則に明記
- 周知徹底が必須
- 説明会や書面通知を活用
動画で解説
この記事を書いた人
- 社会保険労務士・採用定着士
- 岩本 浩一(いわもと こういち)
社会保険労務士法人あいパートナーズ 代表社員
採用と定着に特化した人事労務のスペシャリスト。愛媛県社会保険労務士会所属(登録番号:3806011)。愛媛県松山市を拠点に、地元企業のみならず全国の企業の組織成長を支援している。「人手不足を解消し、持続可能な組織をつくる」ことをミッションに掲げ、理論と現場のリアリティを融合させたコンサルティングを展開。
特に「企業型確定拠出年金(企業型DC)」を活用した退職金制度の構築に定評がある。従業員の将来設計を支える福利厚生の整備と、経営側のコスト効率化を両立させる専門的なスキームにより、採用力の強化と離職率の低下を同時に実現。数多くの中小企業における組織課題を解決へ導いてきた。
地域経済への貢献にも注力しており、地元メディア『愛媛経済レポート』にて採用定着をテーマとした連載を長期にわたり担当。また、AI技術を活用した情報発信のパイオニアとしても活動しており、YouTubeチャンネル『あいパートナーズ AI労働解説』やPodcast『博識な猫タマとクロの資料解説』を通じて、労働法や人事トレンドの最新情報を、経営者や人事担当者に向けて分かりやすく解説している。
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