出来高制のメリット・デメリットと実務上の落とし穴

この記事は、出来高制について知りたい方々に向けて、制度の概要やメリット・デメリット、法律面での注意点を詳しく解説します 出来高制は、成果や仕事量に応じて賃金が決まる制度であり、営業職や配送ドライバーなどで採られることがあります この制度の理解を深めることで、適切な運用方法や注意点を把握し、実務上の落とし穴を避ける手助けとなるでしょう

Table of Contents

出来高制(歩合制)とは何か

出来高制とは、労働者が達成した成果や仕事量に基づいて賃金が決まる制度のことを指します この制度は、営業職などで採られることがあり、労働者の努力や成果が直接的に報酬に反映されるため、モチベーションを高める効果があります ただし、出来高制にはいくつかの注意点があり、適切に運用しないとトラブルを引き起こす可能性があります

成果や仕事量に応じて賃金が決まる制度

出来高制は、労働者が行った仕事の成果や量に応じて賃金が支払われる仕組みです 例えば、営業職の場合、売上や成約件数に応じて報酬が変動します このように、成果に基づく報酬体系は、労働者にとってやりがいを感じやすく、企業にとっても効率的な人件費の管理が可能です

出来高払いと歩合給の違い

出来高払いと歩合給は似たような概念で、この記事では説明のために分けて書いていますが、労働基準法27条や労働基準法施行規則19条は「出来高払制その他の請負制」としてまとめて規律しており、売上の一定割合で払う歩合給も、この賃金として同じルールの対象になります 出来高払いは、特定の成果に対して支払われる報酬であり、歩合給は売上の一定割合を報酬として受け取る形です 例えば、営業職が100万円の売上を上げた場合、歩合給が10%であれば10万円が報酬となりますが、出来高払いでは特定の契約数や成果物に基づいて報酬が決まります

出来高制が採用される代表的な職種

出来高制は、特定の職種で採用されています 以下に、出来高制が用いられることのある職種をいくつか挙げます これらの職種では、成果が直接的に報酬に結びつくため、労働者のモチベーションを高める効果があります

営業職(売上・成約件数)

営業職は、出来高制が採用されることのある職種の一つです 営業マンは、売上や成約件数に応じて報酬が変動し、成果を上げることで高収入を得ることが可能です 営業職は成果が数字で測りやすい職種です

配送ドライバー(配達件数・距離)

配送ドライバーも出来高制が採用される職種の一つです 配達件数や走行距離に応じて報酬が決まるため、効率的に業務を行うことで収入を増やすことができます ただし、過度な競争が生じると、労働環境が悪化する可能性もあるため注意が必要です

製造・軽作業(生産数量)

製造業や軽作業においても、出来高制が採用されることがあります 生産数量に応じて報酬が支払われるため、労働者は効率的に作業を行うことで収入を増やすことができます ただし、品質管理が重要であり、数量だけを追求すると品質が低下するリスクがあります

コールセンター(受注件数)

コールセンターでは、受注件数に応じて報酬が支払われる出来高制が採られることがあります オペレーターは、受注数を増やすことで報酬を得るため、成果を上げることが求められます ただし、過度なプレッシャーがかかると、ストレスや離職率の増加につながる可能性があります

建設・設備工事(作業量)

建設業や設備工事においても、出来高制が採用されることがあります 作業量に応じて報酬が決まるため、効率的に作業を行うことで収入を増やすことが可能です ただし、安全管理が重要であり、急いで作業を進めることで事故が発生するリスクがあります

出来高制でも守らなければならない法律

出来高制を採用する際には、法律面での遵守が不可欠です 特に、最低賃金や労働時間管理に関する法律を守ることが重要です 以下に、出来高制に関連する法律のポイントをまとめます

最低賃金を下回ってはならない

出来高制を採用する場合でも、最低賃金を下回ることは許されません(最低賃金法4条1項) 労働者が得られる報酬は、最低賃金以上でなければならず、これを遵守しないと法的な問題が発生します

労働時間管理は必須である

出来高制を導入する際には、労働時間の管理が必須です。労働時間の状況の把握は、事業者の義務です(労働安全衛生法66条の8の3) 労働者の労働時間を適切に管理し、過剰な労働を防ぐことが求められます これにより、労働環境の改善や法的トラブルの回避が可能となります

残業代の支払い義務は通常どおり

出来高制であっても、残業代の支払い義務は通常通り適用されます(労働基準法37条) 労働者が法定労働時間を超えて働いた場合、適切な残業代を支払う必要があります これを怠ると、労働基準法違反となる可能性があります

歩合給も割増賃金の計算に含まれる

歩合給も割増賃金の計算に含まれるため、注意が必要です 歩合給は割増賃金の算定の基礎に含まれますが、固定給と同じ計算ではありません。単価は、歩合給の総額を総労働時間数(時間外、休日、深夜の労働時間を含みます)で割って出します(労働基準法施行規則19条1項6号)。時間外の時間に対する1.0の部分は歩合給の総額に含まれて支払済みなので、割増率(時間外は0.25)の部分だけを掛ければ足ります(昭和23年11月25日基収3052号ほか)。歩合給の総額を1.25倍にするのではありません。具体的な計算は、次の節で示します これを適切に行わないと、法的な問題が発生する可能性があります

歩合給の割増賃金と保障給の計算

歩合給を含む賃金の割増は、固定給とは計算の向きが違います。月給などの固定給は、時間あたりの単価に1.25を掛けて時間外労働の賃金を出します。これに対して歩合給は、単価を、その月の歩合給の総額を総労働時間数(時間外、休日、深夜の労働時間を含みます)で割って出します(労働基準法施行規則19条1項6号)。時間外の時間に対する1.0の部分は歩合給の総額に含まれて支払済みなので、割増率の部分だけを掛ければ足ります(昭和23年11月25日基収3052号ほか)。

たとえば、歩合給が24万円で、その月の総労働時間が200時間(うち時間外労働が40時間)の場合、単価は24万円を200時間で割った1,200円です。時間外労働の割増賃金は、1,200円に0.25と40時間を掛けて1万2,000円になります。単価に1.25を掛けて40時間分を払うと6万円になり、必要な額を上回ります。時間外労働は0.25、法定休日の労働は0.35、深夜(午後10時から午前5時)の労働は0.25、1か月60時間を超える時間外労働は0.5を、同じ単価に掛けます(労働基準法37条、割増賃金の率を定める政令)。時間外労働が深夜に及ぶ時間は、0.25と0.25を足して0.5になります(労働基準法施行規則20条1項)。固定給と歩合給を併せて払うときは、固定給の部分と歩合給の部分をそれぞれ別の方法で計算して合計します(労働基準法施行規則19条1項7号)。

出来高払制その他の請負制で働く労働者には、使用者は、労働時間に応じて一定額の賃金を保障しなければなりません(労働基準法27条)。成果が上がらなかった月でも、働いた時間に応じた一定額を払うための義務で、会社が設けるかどうかを選べる工夫ではありません。条文は「労働時間に応じ」と定めているため、保障する額は、働いた時間に結びつけて、時間あたりの額で定めるのが基本です。条文は金額そのものを定めていないため、就業規則や賃金規程に、保障給の額の決め方を具体的に書いて運用します。この義務に違反すると、30万円以下の罰金の対象になります(労働基準法120条1号)。

最低賃金との比較は、出来高払制の賃金の総額を、その期間の総労働時間数で割って時間額に直して行います(最低賃金法施行規則2条1項5号)。このとき、時間外、休日、深夜の割増賃金は含めません(最低賃金法4条3項、最低賃金法施行規則1条2項)。保障給を払っていても、時間額に直した金額が都道府県ごとに定められた最低賃金を下回れば、最低賃金法4条違反になります。

この記事で説明する労働基準法の賃金の規定は、労働基準法9条の労働者に適用されます。業務委託契約で働くフリーランスへの報酬は、労働者に当たらない限り、これらの規定の対象になりません。

出来高制が違法となるケース

出来高制が違法となるケースも存在します 以下に、具体的なケースを挙げてみましょう これらのケースを理解することで、適切な運用が可能となります

成果が低いと最低賃金を割る給与体系

出来高制の給与体系が、成果が低い場合に最低賃金を割ることがあると、違法となります 労働者が得られる報酬は、常に最低賃金以上でなければなりません これを遵守しないと、法的な問題が発生します

労働時間管理をせず成果だけで給与を決める

成果に応じて給与を決めること自体は違法ではありません。ただし、労働時間に応じた保障給を設けずに成果だけで決めることはできず(労働基準法27条)、労働時間を管理せずに運用することは、労働時間の把握義務にも反します。労働時間の状況の把握は事業者の義務であり(労働安全衛生法66条の8の3)、賃金台帳にも、管理監督者などを除いて労働時間数を記入する必要があります(労働基準法108条、労働基準法施行規則54条) 労働者の労働時間を適切に管理し、法定労働時間を遵守することが求められます これを怠ると、労働基準法違反となる可能性があります

固定残業代との区分が曖昧なケース

固定残業代との区分が曖昧な場合も、違法となる可能性があります(労働基準法37条)。判例は、通常の労働時間の賃金に当たる部分と、割増賃金に当たる部分を判別できることを求めています(高知県観光事件・最高裁平成6年6月13日判決)。さらに、その手当が時間外労働の対価として支払われているかも問われ、契約書や賃金規程の記載、使用者の説明、実際の勤務状況から判断されます(日本ケミカル事件・最高裁平成30年7月19日判決)。歩合給を出すときに、売上の一定割合から割増賃金に相当する額を差し引く賃金規則について、最高裁は、通常の労働時間の賃金と割増賃金を判別できず、割増賃金を支払ったとはいえないと判断しました(国際自動車事件・最高裁令和2年3月30日判決) 固定残業代を設定する場合は、その内容を明確にし、労働者に説明する必要があります これを怠ると、法的な問題が発生する可能性があります

出来高制のメリットとデメリット

出来高制には、メリットとデメリットが存在します 以下に、それぞれのポイントを詳しく解説します これを理解することで、出来高制の適切な運用が可能となります

従業員の成果が給与に反映されやすい(メリット)

出来高制の最大のメリットは、従業員の成果が給与に反映されやすい点です 労働者は、自分の努力や成果に応じて報酬を得ることができるため、モチベーションが高まります このため、企業にとっても生産性の向上が期待できます

企業の人件費が柔軟に調整できる(メリット)

出来高制を導入することで、企業は人件費を柔軟に調整することが可能です 成果に応じて報酬が変動するため、業績に応じた人件費の管理が容易になります これにより、経営の効率化が図れるでしょう

収入が不安定になりやすい(デメリット)

出来高制のデメリットとして、収入が不安定になりやすい点が挙げられます 成果が出ない場合、報酬が減少するため、生活が不安定になる可能性があります これにより、労働者のストレスが増加することも考えられます

長時間労働を助長する可能性(デメリット)

出来高制は、長時間労働を助長する可能性があります 成果を上げるために、労働者が過剰に働くことがあるため、労働環境が悪化するリスクがあります これを防ぐためには、適切な労働時間管理が必要です

出来高制の適正な運用方法

出来高制を適切に運用するためには、いくつかのポイントがあります 以下に、適正な運用方法をまとめます これを参考にすることで、トラブルを未然に防ぐことが可能です

基本給と歩合給の区分を明確にする

出来高制を導入する際には、基本給と歩合給の区分を明確にすることが重要です 労働者がどの部分で報酬を得るのかを明確にすることで、トラブルを防ぐことができます これにより、労働者の理解も得やすくなります

保障給(最低補償額)は法律上の義務である

出来高払制その他の請負制で働く労働者には、労働時間に応じて一定額の賃金を保障する義務が使用者にあります(労働基準法27条)。会社が任意に設ける工夫ではなく、違反すると30万円以下の罰金の対象になります(労働基準法120条1号)。保障給の額の決め方を、就業規則や賃金規程に定めておくと、トラブルを防げます 労働者が最低限の収入を得られるようにすることで、安心して働くことができる環境を整えることが重要です

残業代・深夜・休日手当の計算方法を明示する

残業代や深夜・休日手当の計算方法を含む、賃金の決定と計算の方法は、労働条件通知書で書面により明示する義務があります(労働基準法15条1項、労働基準法施行規則5条) 労働者がどのように報酬を得るのかを理解することで、トラブルを防ぐことができます これにより、労働者の信頼を得ることができるでしょう

就業規則に歩合給の算定方法を記載する

歩合給の算定方法と割増賃金の計算方法を含む、賃金の決定と計算の方法は、常時10人以上の労働者を使用する事業場では、就業規則に記載しなければなりません(労働基準法89条2号)。10人未満の事業場には就業規則の作成義務はなく、労働条件通知書での書面の明示(労働基準法15条1項)が義務の中心になります 労働者がどのように報酬を得るのかを明確にすることで、トラブルを未然に防ぐことが可能です

まとめ:出来高制は正しく運用すれば有効な賃金制度

出来高制は、正しく運用すれば非常に有効な賃金制度です 成果に応じた報酬体系は、労働者のモチベーションを高め、企業の生産性向上にも寄与します しかし、法律面での遵守や労働環境の管理が不可欠であり、適切な運用が求められます これらのポイントを理解し、実務に活かすことで、出来高制を効果的に運用することができるでしょう。

動画で解説

この記事は、2026年10月時点の制度に基づいています。賃金や労働時間に関する制度は改正されることがあるため、実際の運用では、厚生労働省の最新の案内を確認するか、社会保険労務士にご相談ください。

この記事を書いた人

岩本浩一社会保険労務士・採用定着士
岩本 浩一(いわもと こういち)
社会保険労務士法人あいパートナーズ 代表社員

採用と定着に特化した人事労務のスペシャリスト。愛媛県社会保険労務士会所属(登録番号:3806011)。愛媛県松山市を拠点に、地元企業のみならず全国の企業の組織成長を支援している。「人手不足を解消し、持続可能な組織をつくる」ことをミッションに掲げ、理論と現場のリアリティを融合させたコンサルティングを展開。

特に「企業型確定拠出年金(企業型DC)」を活用した退職金制度の構築に定評がある。従業員の将来設計を支える福利厚生の整備と、経営側のコスト効率化を両立させる専門的なスキームにより、採用力の強化と離職率の低下を同時に実現。数多くの中小企業における組織課題を解決へ導いてきた。

地域経済への貢献にも注力しており、地元メディア『愛媛経済レポート』にて採用定着をテーマとした連載を長期にわたり担当。また、AI技術を活用した情報発信のパイオニアとしても活動しており、YouTubeチャンネル『あいパートナーズ AI労働解説』やPodcast『博識な猫タマとクロの資料解説』を通じて、労働法や人事トレンドの最新情報を、経営者や人事担当者に向けて分かりやすく解説している。